前回に引き続き「わが名はジョナサン・スクリブナー」の裏話。今度はカバーの画について。
あれはアーサー・シュジクというユダヤ系ポーランド人の作品だ。本の挿絵や政治的な風刺画を描いて生前は非常に人気があったらしい。1894年に生まれ、1951年にずいぶん若くして亡くなっている。
カバーに選んだのは The Scribe という画。scribe は筆記者とか書記とか文士という意味で、わたしの翻訳の主人公スクリブナー Scrivener と非常によく似た言葉だ。これは非常に不思議な画である。眼光鋭い男はルネサンスの頃の服装をしている。しかし手に持っているのは万年筆だ。巻物に書いているのはドイツの表現派の詩である。アナクロニズム、つまり時代がめちゃくちゃである。窓の外には飛行機が飛んでいるし、壁にはアメリカのドル紙幣、ピカソ風の抽象画がかかっている。
シュジクがこの画でなにを描きたかったのかはわからない。(シュジクの伝記などを読みたいのだが、残念なことに大学の図書館は貸してくれないのだ)しかしわたしはスクリブナーという人物はここに描かれたような男ではないかと思った。金儲けもできるし、芸術家としても一流。画も描ければ詩も書ける。おそらくダヴィンチみたいに飛行機やいろいろな機械の発明もできるのだろう。彼は作品の中でシェイクスピアにたとえられているけれど、画に描かれた男もルネサンス期の衣装を着ている。うん、これだ、とわたしはこの画をカバーにすることにした。
「わが名はジョナサン・スクリブナー」はアメリカの小さな出版社ヴァランコートからも出されている。その挿絵はこんな感じである。
スクリブナーの多面性を表現した面白い画だと思う。しかしわたしの解釈では、その多面性はじつは一点に集約される。だから抽象的な画よりも、明確な一人の人物を表紙に据えてみたかった。その意味でも The Scribe はちょうどよかった。
つづく
Friday, December 6, 2019
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