イギリスの世紀末、1890年代というのは女権論者の小説がわんさか書かれた時期である。ハラデンも有名な女権論者で、本作は1894年に公刊され大ヒットを納めた。素っ気ないほど簡潔なロマンス小説だが、悪くない。
バーナディンはばりばりの女権論者で、文学者を目指し、積極的に社会に出て行こうとしていたのだが、身体を悪くし、スイスの療養所へ行く。肺炎の末期患者が多いせいだろう、ここでは次々と人が死んでいくようだ。しかも感心しないことに、付き添いの人々は病人をそっちのけにしていろいろな国から来た男性女性と色恋沙汰を繰り広げているのだ。
バーナディンは女権論者だけあってまじめ一方だが、おかしなことに療養所で「不愉快な男」と呼ばれているある男性と親しくなる。普段は皮肉屋なのだが、あるときふと優しい、人間らしい姿を見せ、そのときから彼女は彼に恋をはじめる。
バーナディンが療養所を出てロンドンに帰ったため、二人はしばらく別れ別れになるが、あるとき「不愉快な男」はロンドンへ彼女を訪ねてゆき、結婚を申し込む……。
話の大筋はこんな具合で、べつにどうということもない。ただ、ロマンスだけれども、感傷性をいっさい排した、乾いた文章がすばらしく、なぜか最後まで読んでしまう。ロマンチックなものをロマンチックな書き方を拒否しながら描き出すという、ちょっと面白い作品だ。哲学的な言い回しもふんだんにあらわれ、無学なはずの療養所の女中さんまで Da wo ich nicht bin, da ist das Gluck などと独りごちるのだからびっくりだ。しかも意外な終わり方をしていて、奇妙な余韻を残す作品となっている。
英語読解のヒント(145)
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