以前トッド・ロビンスの「街の精霊」をレビューしたが、未熟な出来ではあるものの、暴力や悪意に対する独特の視線に興味を引かれた。もしかしたら小説を書くことに馴れて、すごいものを書くかも知れないという、将来に期待を抱かせる作品だった。(もうすでに死んだ作家に「将来に期待を抱かせる」というのもなんだけれど)
そこで彼の代表作といわれる「邪悪な三人」を読んでみた。相変わらず小説の書き方はへたくそなのだが……結局彼はパルプ作家なのだ……しかしこれは格段に面白い、深みのある物語となっている。サーカスに出ていたこびと、腹話術師、怪力男が結託し、金持ちの邸宅に忍び込み、殺人を犯しながら宝石などを奪い取るという話しである。彼らは売れない作家に彼らの罪をなすりつけようとするのだが、腹話術師が仲間を裏切り、彼らは捕まる。
この話のなにが面白いのか。まず、The Unholy Three とはキリスト教で云う三位一体のネガティブ・バージョンであること。こびとは頭脳であり、腹話術師は声であり、怪力男は肉体である。これが不吉な一者を形成しているのだ。次に神話的な世界とのつながりが見て取れることが興味深い。声である腹話術師はエコーと称され、怪力男はハーキュリーズだ。ニューヨークの都会にひっそり生息する彼らの闇の世界は、たしかに神話的な、不思議な雰囲気をたたえている。三人の首領格であるこびとは、トウィードルディーと呼ばれる。キャロルの「鏡の国のアリス」に出てくるあれである。この名前も謎めいている。なぜならトウィードルディーはトウィードルダムと双子なのだから。こびとがトウィードルディーなら、誰がトウィードルダムなのか。これは不吉な謎かけになっている。
腹話術師のエコー、「声」が、頭であるこびと、つまり精神を裏切るという設定もいい。デリダのせいで主体の意図は声に現前するなどといった考え方が流布しているが、「邪悪な三人」では、主体の意図は声によって裏切られるのだ。これは肝心な点である。ムラーデン・ドラールが声の不思議なステータスについて書いていたが、あれをふと思い出した。
パルプ小説らしい文章のまずさはあるものの、作者はなにかある本質に荒々しく迫ろうとしている。トッド・ロビンスが「邪悪な三人」以降、どうこのテーマに迫っているのか、読んでみたいのだが、ほかの作品がなかなか手に入らないのが残念だ。
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