Monday, February 17, 2020

喜ばしい再刊

ディーン・ストリート・プレスから近々ロイ・ホーニマンの傑作「イズリアル・ランク」が再刊されるそうだ。以前わたしは Internet Archive からダウンロードしてむさぼるように読んだことがある。この作品は映画されていて、アレック・ギネスの名演で御存じの方もあるかもしれない。映画版のタイトルは Kind Hearts and Coronets。これも Internet Archive で見ることが出来る。

しかしトッド・ロビンスの The Unholy Three もそうだが、映画よりも原作の方が数等面白い。「イズリアル・ランク」は連続殺人の物語なのだが、殺人者であり語り手でもある男の冷笑的な、人種差別的な、なんともいえないいやらしさが、この作品に独特の風貌を与えている。そのひねた感触が映画ではまったく消去されている。

この本は異なる出版社から何度か再刊されているはずだが、それでもまだ「知られざる傑作」のままに終わっているような気がする。不思議なことだ。パトリック・ハミルトンなどもときどき熱狂的な支持者の声を聞くが――そしてその作品の質は非常に高いのだが――なぜか決して重要作家の仲間入りはしない。常に周縁的な作家と見なされている。ベストセラー作家の作品よりはるかに繊細で味わい深いというのに。

こういう作家の本はとにかく出版社が何度も再刊し、読者の目の触れるところに押し出すよう努力するしかない。わたしも隠れた名作を世に知らしめたいと思って翻訳している。訳すだけではなく、その作品の価値が理解されるように解説にも気を配っているつもりだ。もちろんわたしの実力不足で、いくらその作品のすばらしさを感じていても、それを個人的な印象批評ではなく、ある種の論理性を持った説明に置き換えることができないことは、ままあるのだけれど。

ディーン・ストリート・プレスはヘンリエッタ・クランドンやラッドフォード夫妻の古典的ミステリも再刊する予定のようだ。とても全部は読めそうもないが、楽しみだ。

英語読解のヒント(145)

145. 付帯状況の with 基本表現と解説 He was sitting, book in hand, at an open window. 「彼は本を手にして開いた窓際に座っていた」 book in hand は with a book in his hand の...