数学は答があるからわかりやすい。でも国語は答が一つじゃないし、曖昧だから、わかりにくい。世間的にはそんな評価が蔓延している。
数学というのは無矛盾の体系を作ろうとする。すくなくとも二十世紀の初めまでは、そのようなものを作ろうとしていた。ところが数学を基礎づけるはずの集合論に決定的なパラドクスが発見され、ゲーデルが数学という試みの不完全性を証明してしまった。無矛盾の体系を作ろうとしても、そこには証明も反証も不可能な領域が存在してしまうことを「証明」してしまったのだ。本当は数学はそこまで勉強しなければならない。
証明も反証も不可能な領域。そう、数学にだって答は一つじゃない、曖昧な領域があるのだ。中学や高校ではそこまではいかないから数学は答がはっきりしている、などと思うのである。
文学(テキスト研究)は数学が自壊する地点をはじめから含んでいる。排中律の成立しない領域に於いて思考を展開しようとする。しかし排中律が成立しないからと云ってメチャクチャが展開されているわけではないのだ。ハムレットじゃないが、狂気の中にも一定の論理がある。その論理は案外数学的(トポロジカル)であったりするのだが。
Sunday, March 1, 2020
E.C.R.ロラック「作者の死」
ヴィヴィアン・レストレンジは超売れっ子のミステリ作家である。この作家は人嫌いなのかなんなのか、けっして社交の場には出て来ない。覆面作家という言い方があるが、この人の場合は覆面もなにも、とにかく人には会わない。出版社の人々にすら会わないのだ。あるとき編集者からパーティーに呼ばれたが...
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ウィリアム・スローン(William Sloane)は1906年に生まれ、74年に亡くなるまで編集者として活躍したが、実は30年代に二冊だけ小説も書いている。これが非常に出来のよい作品で、なぜ日本語の訳が出ていないのか、不思議なくらいである。 一冊は37年に出た「夜を歩いて」...
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アリソン・フラッドがガーディアン紙に「古本 文学的剽窃という薄暗い世界」というタイトルで記事を出していた。 最近ガーディアン紙上で盗作問題が連続して取り上げられたので、それをまとめたような内容になっている。それを読んで思ったことを書きつけておく。 わたしは学術論文でもないかぎり、...
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アニー・ヘインズは1865年に生まれ、十冊ほどミステリを書き残して1929年に亡くなった。本作は1928年に発表されたもの。彼女はファーニヴァル警部のシリーズとストッダード警部のシリーズを書いているが、本作は後者の第一作にあたる。 筋は非常に単純だ。バスティドという医者が書斎で銃...