二十世紀前半のスペイン風邪と、大恐慌が一度にやってきたみたいな時期なので、時事ネタを扱えばいくらでも記事が書けそうだ。しかしこういうときこそ逆に落ち着いて考えなければならない。事態はパニックに陥るにはあまりにも深刻すぎる、とスラヴォイ・ジジェクも語っていた。
昨日、プロレス興行も無観客試合をしてはどうかと書いたが、プロレスリング・ノアは行政的な要請もあって実際に二十九日に無観客試合をやるようだ。おやおやと思っていたら、なんと全日本プロレスもチャンピオン・カーニバルの初戦を無観客でやることになった。
昨日も書いたように、無観客自体はそう悪いことではない。普段は雑音で聞こえない音や息づかいが聞こえ、試合は迫力を増すかも知れない。カメラの眼はあるものの、完全に選手たちだけといっていい世界で彼らがどんな振る舞いを見せるのか、ある意味で純粋な「プロレス」が見られるのではないか、「プロレス」のあらたな魅力が垣間見られるのではないか、などと、わたしは期待している。文学や芸術においても、きびしい検閲の中で、逆に創造性が発揮されるという例は数多くある。もちろん無観客や検閲が望ましいなどというわけではないのはもちろんだけれど。
政府はメルケル首相のように「われわれは文化事業の重要性を忘れてはいない、活動に従事する人々を全力で支援する」と力強いメッセージを出し、その体制を急遽ととのえなければならないのだが……。
Friday, March 27, 2020
E.C.R.ロラック「作者の死」
ヴィヴィアン・レストレンジは超売れっ子のミステリ作家である。この作家は人嫌いなのかなんなのか、けっして社交の場には出て来ない。覆面作家という言い方があるが、この人の場合は覆面もなにも、とにかく人には会わない。出版社の人々にすら会わないのだ。あるとき編集者からパーティーに呼ばれたが...
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ウィリアム・スローン(William Sloane)は1906年に生まれ、74年に亡くなるまで編集者として活躍したが、実は30年代に二冊だけ小説も書いている。これが非常に出来のよい作品で、なぜ日本語の訳が出ていないのか、不思議なくらいである。 一冊は37年に出た「夜を歩いて」...
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アリソン・フラッドがガーディアン紙に「古本 文学的剽窃という薄暗い世界」というタイトルで記事を出していた。 最近ガーディアン紙上で盗作問題が連続して取り上げられたので、それをまとめたような内容になっている。それを読んで思ったことを書きつけておく。 わたしは学術論文でもないかぎり、...
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アニー・ヘインズは1865年に生まれ、十冊ほどミステリを書き残して1929年に亡くなった。本作は1928年に発表されたもの。彼女はファーニヴァル警部のシリーズとストッダード警部のシリーズを書いているが、本作は後者の第一作にあたる。 筋は非常に単純だ。バスティドという医者が書斎で銃...