全日本プロレスのファンとして、コロナウイルスが興業の大きな支障となっている事態を深く憂えている。興行できなければ会社は成立しない。しかし興業は大勢の人が集まることを意味し、彼らを感染の危険にさらすことでもある。とくに東京は感染者の数が増えつつあり、韓国のように徹底した対策を取っていない日本では、今後爆発的な拡大が起きる可能性もある。いや、その予兆はすでにあるのだ。
だとすれば、相撲のように無観客試合ということも考えなければならないだろう。会場も小さなところ、あるいは道場でやってもいいかもしれない。それを全日本プロレスTVで配信するのである。これはそんなに悪いアイデアではないような気がする。相撲の場合、無観客のせいで逆に肉体同士のぶつかる音が迫力をもって伝わり、意外と面白いように、プロレスだってある種の条件の中で行われるとき、予想外の魅力を見せるのではないか。プロレスラーがアマレスのルールで試合をするとき、あるいは客受けする派手な技をいっさい使わず地味な関節技の応酬を見せるとき、われわれファンははっとし、熱狂的にそれを受け入れてきた。もちろん声援が聞きたいという選手の気持ちもわかるが、異常事態が発生しているのだから、それに合わせて行動するのもいたしかたないと思う。
そしてなによりも肝心なのは、政府がこうした文化活動を守るためにしっかりした財政出動をしたり、税制上の措置を取ることだ。フリーランスに十万円を「貸し付ける」とか、貯金されることを恐れて商品券のみを配布するというような、ふざけたことを考えている場合ではない。イギリスは働けなくなった人々に対して給与の80%を支払うことにしたぞ。日本円に換算すると、月額で最大三十数万円の補助だ。
Wednesday, March 25, 2020
E.C.R.ロラック「作者の死」
ヴィヴィアン・レストレンジは超売れっ子のミステリ作家である。この作家は人嫌いなのかなんなのか、けっして社交の場には出て来ない。覆面作家という言い方があるが、この人の場合は覆面もなにも、とにかく人には会わない。出版社の人々にすら会わないのだ。あるとき編集者からパーティーに呼ばれたが...
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ウィリアム・スローン(William Sloane)は1906年に生まれ、74年に亡くなるまで編集者として活躍したが、実は30年代に二冊だけ小説も書いている。これが非常に出来のよい作品で、なぜ日本語の訳が出ていないのか、不思議なくらいである。 一冊は37年に出た「夜を歩いて」...
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