C.St.ジョン・スプリッグはクリストファー・コードウェルの本名である。この早世したマルクス主義批評家については以前どこかで書いたような気がするので、ここでは省略する。彼は小説も書いていて、この方面でもなかなかの力量を示している。「飛行士の死」などはミステリとしても悪くない。
しかし「わが手」(原題 This My Hand)は彼の作品の中でもとりわけ傑出した出来を示している。わたしはこの心理小説に圧倒された。知られざる名作とはまさにこういう小説を云うのだろう。
なにがすごいのか。この作品では登場人物の心理的な側面に注目してその生い立ちがたどられるのだが、その成長の仕方が有無を言わせぬある種の論理性を帯びているのである。しかもそれでいて、確かにこういう人間はいるな、と思わせる自然な人間性の表現にもなっている。こんな書き方ができるだけでも並の実力じゃないのだが、さらに作者はそうした人物たちを絡み合わせて、やはりある種の必然性をともなった結論へと物語を導いていく。つまり個々の人物の心理表現もすばらしければ、異なる性格のインターアクションも見事に表現されているのである。
明らかにフランスの心理小説をモデルにして書かれているが、「マクベス」の一節をタイトルにしているところからもわかるように、イギリス文学もその根底には横たわっている。アクションによってわくわくさせる物語ではない。あくまで文学の玄人好みの作品である。しかし静かに鈍色の光を放つ秀作だと思う。
英語読解のヒント(164)
164. hang me if 基本表現と解説 Hang me if you can do it. I'm hanged if you can do it. I'll be hanged if you can do it. いずれも「お前にできるなら...
-
久しぶりにプロレスの話を書く。 四月二十八日に行われたチャンピオン・カーニバルで大谷選手がケガをした。肩の骨の骨折と聞いている。ビデオを見る限り、大谷選手がリングのエプロンからリング下の相手に一廻転して体当たりをくわせようとしたようである。そのときの落ち方が悪く、堅い床に肩をぶつ...
-
今朝、プロジェクト・グーテンバーグのサイトを見たら、トマス・ボイドの「麦畑を抜けて」(Through the Wheat)が電子書籍化されていた。これは戦争文学の、あまり知られざる傑作である。 今年からアメリカでは1923年出版の書籍がパブリックドメイン入りしたので、それを受けて...
-
「ミセス・バルフェイムは殺人の決心をした」という一文で本作ははじまる。 ミセス・バルフェイムは当時で云う「新しい女」の一人である。家に閉じこもる古いタイプの女性ではなく、男性顔負けの知的な会話もすれば、地域の社交をリードしもする。 彼女の良人デイブは考え方がやや古い政治家...