アマゾンから出した「闇の深みへ」には続編がある。「闇の深みへ」はアダム・エンバーたちがドロヒッツの町へ向かう場面で終わるが、続編「銀のバッカス」は彼らがドロヒッツの町に到着する場面から始まる。彼らは町の人々から大歓迎され、病兵は手厚い看護を、その他の兵士は贅沢なもてなしを受けることとなる。ところが彼らが町外れの紅灯の巷、つまり娼館シルバー・ホールで遊び浮かれている最中に、娼館の中で疫病による死者が発生する。部隊はさっそく町と娼館のあいだに非常線を張り、疫病の感染を防ごうとするのだが、もちろんそううまくいくものではない。疫病はドロヒッツ中に蔓延し、アダムは再び疫病による死者を埋める作業に従事する。
この物語の最後はどうなるか。敵軍がドロヒッツに向かっていることを知った最高司令部は、敵軍を疫病に感染させるため、アダムたちにドロヒッツを見捨てさせるのである。自分たちの利益のためなら無辜の民を平気で犠牲にする。それが戦争であり権力というものだ。
これを読んだとき、わたしは映画の「エイリアン」を思い出した。あの映画ではとある企業が、危険きわまりない異星の生物を地球に持ち帰ろうとする。戦争兵器として使おうというのだ。それを知ってシガニー・ウィーバー演じる宇宙飛行士は激怒する。自分たちに制御できないものを使ってまで戦争に勝とうとする、人間の非人間性がここにあらわれている。
日本政府はオリンピック開催のためにコロナ・ウイルスに感染した人の数を低く見せようとしていたが、経済を優先し、人間を二の次に置く日本政府の非人間性と、上記の小説や映画に描かれた権力とのあいだには、なんら逕庭はない。
Saturday, April 18, 2020
エドワード・アタイヤ「残酷な火」
エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...

-
アリソン・フラッドがガーディアン紙に「古本 文学的剽窃という薄暗い世界」というタイトルで記事を出していた。 最近ガーディアン紙上で盗作問題が連続して取り上げられたので、それをまとめたような内容になっている。それを読んで思ったことを書きつけておく。 わたしは学術論文でもないかぎり、...
-
今朝、プロジェクト・グーテンバーグのサイトを見たら、トマス・ボイドの「麦畑を抜けて」(Through the Wheat)が電子書籍化されていた。これは戦争文学の、あまり知られざる傑作である。 今年からアメリカでは1923年出版の書籍がパブリックドメイン入りしたので、それを受けて...
-
63. I don't know but (that /what) 基本表現と解説 I don't know but that he did it. 前項の Who knows の代わりに I don't know とか I cannot say ...