イギリスではロックダウンがはじまってから本の売り上げが急速に伸びたという報道が繰り返されている。しかも、この新しい生活が数週間はつづくとあって、大部の本が売れているらしい。ガーディアンは特に売れている本を四冊紹介していた。(https://www.theguardian.com/books/2020/apr/25/tolstoy-steinbeck-defoe-why-are-so-many-turning-to-classic-novels)
ジョージ・エリオット「ミドルマーチ」
ペンギンによるとオーディオ・ブックの売り上げが30%アップしたそうだ。傑作という評判は高いが、あまりの分厚さにイギリス人もあまり読んでいないのだろう。日本の「源氏物語」みたいなものだ。
オスカー・ワイルド「ドリアン・グレイの肖像」
イギリス世紀末を代表する作品。オーディオ・ブックの売り上げはなんと59%のアップ。誰もが一度は読んでいる作品かと思ったが、そうでもないのだろうか。
ヴァージニア・ウルフ「自分の部屋」
オーディオ・ブックの売り上げは64%アップ。ウルフはフェミニストのあいだでもてはやされている作家だし、部屋に閉じこもるこの時期に読むには、まあ、ふさわしいかもしれない。ついでにこれをきっかけに優秀な作家があらわれればロックダウンも無駄ではなかったと言うことになる。
ローリー・リー「ある真夏の朝に外に出て」
電子書籍の売り上げが154%アップ。よりによってなぜこの本が、という気がしないでもないが、とにかく名作である。「ロージーと林檎酒を」および「戦争のとき」と組み合わされて三部作をなしている。作者がロンドンからスペインまで旅をし、内戦に巻き込まれる様子を描いたものだ。
ほかに売れている本というとトルストイの「戦争と平和」、ヒントンの「アウトサイダーたち」、スタインベックの「鼠と人間」、デフォーの「悪疫の年」、ボッカチオの「デカメロン」、フォン・アーミンの「魔法の春」(驚くなかれ、この本の売り上げは5000%上昇した)、カーの「田舎での一か月」などがあるそうだ。
これを見てなんとなく不思議な気がする。どれも本格的な文学作品、まじめな作品ばかりだからだ。もちろんスティーブン・キングを読む人もいるだろうけど、なぜリストのトップにあがってこないのだろう。われわれの直面している情勢が深刻だからだろうか。たんに現実逃避として読書しているのではなく、なんらかの知恵を得ようとしてこうした本に向かうのだろうか。わたしはたぶんそうなのだろうと思う。文学というのは閑文字ではなく、人間が危機に直面したときに真価を発揮する、あるいは真価を発揮しなければならないものなのだ。
Thursday, April 30, 2020
エドワード・アタイヤ「残酷な火」
エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...

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