アルバトロス出版社は1932年に創立されたドイツの出版社である。ナチスが台頭するドイツのハンブルグに本社があったが、その出資者はほとんどがユダヤ系イギリス人という奇妙な会社だった。しかも英語で書かれた作品をドイツ語に翻訳することなく、そのまま英語で出版した。
アルバトロスが出した本は、ジョイスやウルフの前衛的な作品からクイーンの推理小説にいたるまで、非常に幅広い。ただしハードカバーではなく、一般読者向けに安いペーパーバックを出していた。本のサイズを黄金比にし、活字に新しく作られたサンセリフを用い、本はジャンル別に色分けされていた。「マグノリア通り」は小説なので、オレンジ色の表紙をしている。もうお気づきと思うが、こうしたやり方はペンギンブックスがしっかりと真似している。
「マグノリア通り」の本文のあとにはアルバトロスの出版物が作者別にリストアップされている。1930年代にはこんな本が読まれていたのかと、感慨深く眺めた。
文学の分野で、いちばん冊数が多く出された作家はロレンスで七点。もっとも「チャタレー夫人」は入っていない。それからシンクレア・ルイスが六点と多い。ハクスレーは五点。エラリー・クイーンとバーナビイ・ロスをまとめて勘定すると、これも五点。
オニールとかウォルポールとかマッケンジーのようによく知られた作家が多いが、まったく知らない作家もいる。こういう作家はあとで本が手に入るか、調べなければならない。意外な宝石が隠れていることもあるからである。
本文のあとについているこうしたリストは非常に貴重で、なかには新聞の書評の抜き書きが並んでいるものもある。読者の購買欲をそそるように、褒め言葉ばかりを集めているが、それでも作品に対する当時の反応がなにがしかわかり興味深い。
しかし今回いちばんびっくりしたのは、The Albatross Modern Continental Library として知られる出版物のリストのほかに、The Albatross Crime Club というリストが一部分掲載されていたことだ。アルバトロスに Crime Club なんてシリーズがあったのか。わたしはまったく知らなかった。本には発行の順番に番号が振られているのだが、「マグノリア通り」の後ろに出ているリストには、百番台の、おそらくこの本が出た当時、いちばん新しかった刊行物の作者名とタイトルしか出ていない。さっそく調べて全リスト手に入れなければ。