メアリ・ガウアはウィットに富む知的な女性だが、容貌はまったく冴えない。舞踏会ではいつも壁の花、結婚のあてもなく、とある慈善家の秘書をしている。ところがある晩、彼女は自分の意志で自分の容貌を変えられることに気づく。たぐいまれな美人になり、背までのばせるのだ。彼女はこの機会にいままで味わえなかった女としての楽しみを味わい尽くそうとする。では彼女は喜びを味わったのか。いや、知的な彼女は美というものが結局のところその人の本質を示すものではないことを悟り、自分の特殊な能力を使って美人に化けることは二度とするまいと決意するのだ。
簡単に言ってしまえばそんなお話である。副題には「ファンタジー」とついているから、まあ、軽い読み物として書かれたものなのだろう。「サヴォイ」誌に掲載された短い小説である。
しかしながらこの短編小説は世紀末の英国社交界の雰囲気を非常にうまくとらえている。有閑階級のぼんぼん、美貌と言うだけでちやほやされる女性、こっそりと交わされる恋愛の噂話、舞踏会のきらびやかさ、そうしたものが短く、印象的に描かれている。また彼女が突如、美女に変貌する不思議な場面も雰囲気があっていい。物語は古くさい教訓じみた終わり方をするが、そこここに才能を感じさせる部分がちりばめられていて、「ジキル博士とハイド氏」とか「ドリアン・グレイの肖像」などと一緒に読まれるべき秀作だと思う。
関口存男「新ドイツ語大講座 下」(22)
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