Wednesday, September 16, 2020

ブライアン・フリン「孔雀の眼」(1928)

 クロラニア国の王子がナタリア国の王女と結婚することになった。ところが王子は以前秘密裡につきあっていたイギリス人女性ダフネとの関係をネタに脅迫状を受け取る。困った王子は名探偵の噂の高いアントニー・バサーストに相談を持ちかける。

それから一か月後のことだ。王子からアントニーのもとに緊急の連絡が入った。以前王子がつきあっていた女性ダフネが歯科医の病院で毒殺されたというのだ。歯科医がダフネの治療を終え、別室へ行くと、何者かがその部屋に外から鍵をかけて医者を監禁状態にしたあと、ダフネを殺害したらしい。ところが数時間後、王子はその死んだはずのダフネから電話を受け取ることになる。王子、驚くまいことか。スコットランドヤードの警部バニスターと捜査に臨んだアントニーは、病院で毒殺された女性がダフネであると警察が勘違いするよう、何者かが巧妙に状況を仕組んだことを知る。では殺されたのは誰か。犯人はなんの目的で警察の捜査を混乱させようとしたのか。

こんなふうにややこしくはじまる本作は、ミステリ黄金期に書かれた秀作の一つと言っていいだろう。しかもあまり人に知られていない秀作である。犯人が明らかになる場面では、誰もが見事な一本投げを食らった思いをするだろう。

じつを言うと、わたしは本書を読みながら「おや、珍しい」と思ったところがあることはあるのだ。しかしそれ以上はなにも考えなかった。しかしあそこが犯人を示す手がかりになっているとは……。

捜査の過程は込み入っているが、随所に驚きがあって飽きずに読み通せる。マニアが好みそうないい作品なのだが、しかしわたしが訳すことはない。手がかりが翻訳できそうにないからである。

エドワード・アタイヤ「残酷な火」

  エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...