Monday, October 5, 2020

S. S. ヴァン・ダインの短編

 よっぽどヴァン・ダインに詳しい人でない限り、彼がアルバート・オーティス(Albert Otis)名義で書いた推理短編を知ることはないだろう。

1916年にピアソンズ・マガジンの一月号から八月号まで以下のような作品を掲載している。

The Wise Guy(一月号)

Full o'Larceny(二月号)

The King's Coup(三月号)

Chivalry(四月号)

The Moon of the East(五月号)

The Scandal of the Louvre(六月号)

A Deal in Contraband(七月号)

An Eye for an Eye(八月号)

これらの作品が書籍にまとめられたことがあるのだろうか。わたしは寡聞にして知らない。日本語のウィキペディアの「S.S.ヴァン・ダイン」の項目や「ミステリー推理小説データベース Aga-Search」などを見ても、出ていないので、興味のある人のためにここに記しておく。ちなみに英語版やフランス語版のウィキペディアを見るとちゃんと記載がある。

内容はハリー・フランクリンという、育ちはいいのだが経済的事情と若者らしい冒険心から詐欺師の仲間になった男と、やはり詐欺師の手先として活動している美しいリリー、さらに古手の詐欺師レッドが芝居を仕組んで悪党どもから金をふんだくる連作冒険物語である。

第一話「頭のいい男」はそれほど面白いわけではないが、犯罪と物語の比喩的な関係が興味深い。ハリーは古手の詐欺師たちとカモを見つけ金をふんだくる。詐欺というのはある物語の中にカモをまきこみ、都合のよいように彼を動かすのがその要諦なのだが、ハリーは彼らが使う物語があまりに古くて、鼻白む。実際、彼らの物語はもう使い古され、みんなにばれているのだ。それゆえハリーは新しい物語を生み出そうとする。本編は、古いメロドラマじみた先輩詐欺師たちの物語に、ハリーが新しいひねりをつけ加える様を描き出している。

千九百十年代というのはモダニズムという文学活動が開始された時期だ。モダニストたちは古いタイプの物語、十九世紀的メロドラマを否定して、新しい物語を作り出そうとしたが、そうした文学的な機運がこの短編の中にも反映されていると見て好い。もっともこの作品がモダニズム作品というわけじゃないけれど、それでも、なんとはなしに当時の時代の雰囲気をあらわすものとはなっている。

第二篇以下、彼らはハワイやら日本やらフランスやら、世界を股にかけて活躍する。

ピアソンズ・マガジンは Hathi Trust で読むことが出来る。

英語読解のヒント(164)

164. hang me if 基本表現と解説 Hang me if you can do it. I'm hanged if you can do it. I'll be hanged if you can do it. いずれも「お前にできるなら...