Das Suchen
Ich suche1 nach2 meiner Pfeife. Wo mag3 sie4 nur5 stecken6? Sie ist nirgends7 zu8 finden. Ich muß sie aber9 unbedingt10 wieder haben, sonst11 kann ich nicht rauchen. Zigaretten12 habe ich keine13. Ich habe nur Pfeifentabak.
So geht14 es, wenn man sich aufs Suchen verlegt15: man findet alles, nur nicht das16 wonach17 man sucht. Man findet eine alte Brille, die18 man nicht mehr braucht19: man findet eine alte Uhr, die nicht mehr geht20; man findet eine alte Banknote21, die nicht mehr gilt22 -- kurz23, man findet da alles, wonach man nicht sucht, nur nicht das, wonach man gerade24 sucht.
Vielleicht25 ist es besser26, daß ich nicht mehr suche? Vielleicht kann ich meine Pfeife gerade deshalb27 nicht finden, weil ich danach28 suche? Vielleicht findet sie sich29 von selbst30, wenn ich nicht mehr an31 sie denke?
In der Bibel heißt32 es zwar33: Suchet, so werdet ihr finden34. Das war35 so in der guten alten Zeit. Heutzutage36 müßte37 der38 Spruch so heißen39: Suchet, so werdet ihr nicht finden.
逐語訳:Ich 私は nach meiner Pfeife 私のパイプを suche 探す。Wo 何処に sie 彼女(パイプ)は nur いったい stecken 隠れている mag のだろう? Sie 彼女(パイプ)は nirgends 何処にも zu finden 見出すべく ist ない。aber しかし Ich 私は sie 彼女(パイプ)を unbedingt 絶対的に wieder ふたたび haben 持た muß ねばならぬ。sonst でないと ich 私は rauchen 煙草を吸う kann nicht ことができない。Zigaretten 巻煙草というやつは ich 私は habe keine 持たない。Ich 私は nur ただ Pfeifentabak パイプ煙草を habe 持つ(のみである)。
man 吾人が sich 吾人自身を aufs Suchen (=auf das Suchen) 探索の上に verlegt 投ずる wenn と So geht es 斯くの如くそれは行く(こんな事になって来る):man findet alles 吾人は凡てを見出す、nur ただ wonach man sucht 吾人が探しているところの das その物は nicht 見出さない。Man 吾人は man 吾人が mehr もはや braucht 要し nicht ない die ところの eine alte Brille 古い眼鏡を findet 見出す。man 吾人は mehr もはや geht 動か nicht ない die ところの eine alte Uhr 古い時計を findet 見出す。man 吾人は mehr もはや gilt 通用し nicht ない die ところの eine alte Banknote 古紙幣を findet 見出す。――kurz 要するに man 吾人は da 其処に wonach man nicht sucht 吾人が探してもいないところの alles すべてを findet 見出す、nur ただ man 吾人が gerade ちょうと sucht 探しつつある wonach ところの das その物 nur だけは nicht (見出さない)。
Vielleicht ひょっとすると ich 私が mehr もはや suche 探さ nicht ない daß ということ es そのことが ist besser より良いか? Vielleicht ひょっとすると ich 私は ich わたしが danach それを suche 探す weil から gerade ちょうど deshalb そのために meine Pfeife 私のパイプを finden 見出す kann nicht ことができない(のだろうか?)Vielleicht ひょっとすると ich 私が mehr もはや an sie 彼女(パイプ)のことを nicht denke 考えない wenn ならば sie 彼女(パイプ)は von selbst おのづから findet sich 見つかる(のだろうか?)
In der Bibel 聖書の中には zwar なるほど heißt es (次の如く)言われている:Suchet 求めよ! so 然らば ihr 汝等は finden 見出す werden であろう(と)。Das それは in der guten alten Zeit 良き古き時代に於て so 左様で zwar あった。Heutzutage 現今では der Spruch 此の金言は so 斯く(次の如く) heißen 云われ müßte ねばなるまい:Suchet 求めよ。so 然らば ihr 汝等は finden 見出さ werdet nicht ざるべし。
註:【1】suche: 不定形:suchen (探す)。発音に注意:ズッヘンではなく「ズーヘン」。
【2】nach: これは「……の後」、「……を追って」「……を求めて」の意の前置詞。「私は私のパイプを探す」ならば、単に Ich suche meine Pfeife でもよさそうなところを、わざわざ nach という前置詞を用いるのは、suchen という動詞の用法から来ています。即ち suchen は大抵 nach という前置詞と共に用いるのです。直訳して「私は私のパイプを求めて探す」といえばわかりましょう。nach は三格支配ゆえ meine Pfeife が三格の形になって meiner Pfeife となっています。
【3】mag (英:may):不定形 mögen、『……だろう』という、推測を意味する助詞。(ich mag, du magst, er mag, wir mögen, ihr mögt, sie mögen)
【4】sie: Pfeife が女性ゆえ、それを指すときには sie というわけ。英語なら it というところ。
【5】nur: これは「ただ」という助詞ですが、ここではその意ではなく、とにかく「いったい……なのかしら?」、「いったい……なのだろう?」と云ったような「不審る」意味の疑問文には nur を用いることが多いのです。つまり「いったい」「そもそも」等にあたります。例:Was hast du nur? (おまえはいったい何を持っているだ)Wo geht er nur him? (あの男はいったい何処へ行くんだろう?)
【6】stecken: 元来は「挟まっている」、「ささっている」ですが、なんでも目に見えない所にひそんでいることを stecken といいます。Was steckt in deiner Tasche? (おまえのポケットの中に何が這入っているんだい?)というわけです。
【7】nirgends (英:nowhere)『何処にも(……しない)』という否定詞。否定詞ですから、これを使えば、他に nicht を要せずして文章全体が否定になります。
【8】zu finden: これだけでは「見出すべく」ですが、前の ist と結びついて「見出すべくある」すなわち「見つかる」という意味になります。(英語では斯ういう時には受動形を用いて is not to be found (見出されるべくない)といいますが、ドイツ語は受動形を用いません。「それは期待すべくある」「それは期待できる」:Es ist zu hoffen (英:It is to be hoped)。「それは否定すべくない」「それは否定できない」:Es ist nicht zu leugnen (英:It is not to be denied)
【9】aber: Aber ich muß sie......とおなじ。
【10】unbedingt: 元来は「無条件の」、「絶対的」という形容詞、または副詞。従って「何とあっても」、「何が何でも」、「是が非でも」の意になる。
【11】sonst: 「然らずんば」、「さなくんば」、「そうでなければ」(英:else, otherwise)即ち「見つけないと」という意になる。
【12】Zigaretten: eine Zigarette (シガレット)の複数。
【13】keine: この文は本当なら Ich habe keine Zigaretten となるところです。ところが、特に Zigaretten を強めて「シガレットなんてものは一つも持っていない」と云おうとすると、本文のような語順になります。
【14】So geht es: 正順では Es geht so. 『それが斯く行く』ですが、これはつまり『だいたい斯う云った調子だ』ということ。会話でも『どんな調子ですか?』は Wie geht es? (How do you do? How are you?) と云います。
【15】wenn man sich aufs Suchen verlegt: „sich verlegen“ は分解すると「自己を置き移す」、aufs Suchen は「探索の上へ」です。しかし、この sich auf......verlegen というのは熟語で「……に身を投ずる」すなわち、なんでも「急に気が向いて何かに熱中しはじめる」ことを云います。たとえば「あいつは何と思ったか急にドイツ語に凝り出した」は Er verlegt sich auf die deutsche Sprache です。Suchen は、suchen から作った名詞で、「物を探すこと」、「捜し物」です。aufs は auf das の略形。
【16】das: これは冠詞ではなく、「その物」の意。この語に特に力が這入りますから、「ダース」と長く発音すること。念を入れると dasjenige (ダースイェーニゲ)ということもあります。
【17】wonach: 「探しつつあるところの」ならば単に was man sucht でもよさそうなわけですが、註2で述べた通り、suchen は nach と共に用いるので、was の代りに wonach (それを求めて)という関係代名詞が用いてあるのです。(was は前置詞と合する時には wo という形になります。)
【18】die: これは関係代名詞。(女性四格)
【19】braucht: brauchen (英:need)「……を必要とする」
【20】geht: 時計が動くことを gehen と云います。時計のみならず、何でも廻転していることを gehen というのです:Die Mühle geht 水車が動いている、der Fahrstuhl geht エレベーターは動いている。
【21】Banknote: 紙幣。――Bank, f. (銀行)、Note, f. (券)
【22】gilt: 不定形は gelten (通用する、有効である)
【23】kurz: 形容詞としては「短い」の意の語ですが、それが「短く」(言えば)の意に用いられ、遂に「簡単に云えば」という意の接続詞にも用いられるのです。
【24】gerade: 「ちょうど」(英:just, precisely)
【25】vielleicht: 「多分」、「おそらく」(perhaps)の意から、「事によると……」「ひょっとすると……?」の意になります。(英:maybe)。発音は「フィール」のところを少し短く「フィル」と発音する方がよろしい。
【26】besser (英:better)
【27】deshalb は weil と結びついて、「……なるが故に其の為めに」すなわち「……である故にこそ」、「……であるばっかりに」となります。それにおまけに gerade (ちょうど、正に)がついて、「……であると云う正に其の原因のために」、となっているわけです。
【28】danach: これは das (それ)という語と nach との結合した形。(was と nach との結合が wonach となるのと同じ関係)ここでは、やはり suchen という動詞が nach と共に用いられるから、「それを」の代りに danach (それを求めて)を用いたわけ。
【29】findet sich: 直訳すると「自分を見出す」であるが、意味は「見つかる」。こういう風に「自分を」という sich と結合した形の動詞を再帰動詞と云います。再帰動詞は大抵「見つける」が「見つかる」になるように、自動詞に変るものが多い。たとえば verbreiten は「ひろげる」、sich verbreiten は「ひろがる」;biegen は「曲げる」、sich biegen は「曲がる」;schließen は「閉める」、sich schließen は「閉まる」。
【30】von selbst: 「おのずと」、「自然に」
【31】an sie: suchen を nach と共に用いるように、denken (考える)も an と共に用います。(英:think of......)
【32】heißt: heißen には色々な意味がありますが、ここでは es heißt (……と云ってある、……と云う文句がある、……に曰く)という熟語と思ってよろしい。heißen には、つまり「……と云われる、……と云われている」という意味もあるわけです。また『Zigarette の複数は Zigaretten と云う』(Die Mehrzahl von Zigarette heißt Zigaretten) といったような時にも用いることは既に御存じでしょう。
【33】zwar: という語は『なるほど云々ではあるが、しかし……』という風に、仮に譲歩して或る事実を認めてかかる時の『なるほど』という日本語にあたります。だから、一度この zwar を用いると、その次には大抵 aber (しかし……)と来るのが普通です。本文の中にはそれは見えていませんが、入れるとすれば Heutzutage aber (現今では併し……)と補って考えてみるとわかりましょう。
【34】Suchet, so werdet ihr finden: これは聖書マタイ伝(7,7)の中の有名な文句『求めよ、さらば与えられん、尋ねよ、さらば見出さん、門を叩け、さらば開かれん』(Bittet, so wird euch gegeben: Suchet, so werdet ihr finden; klopfet an, so wird euch aufgetan)です。Suchet というのは命令形という形で「汝等」という意味で命ずる時には -et! または -t! の語尾をつけます。現代文でなら Sucht! でいいのですが、聖書では少し古い形が用いてあるので Suchet! となっているわけです。――werdet は werden (……するであろう)という助動詞。
【35】war: 英:was。
【36】Heutzutage: 英の nowadays (現在では、当今の世では)、分解すると heute, zu, Tage の三語から成っています。
【37】müßte: これは muß (……せねばならぬ)と大体同じような意味の語ですが、『……せねばなるまい』という風に、やや婉曲に穏便に云う場合には muß よりも müßte の方を用いた方が適当です。文法的に云うと、müßte という形は müssen (……せねばならぬ)という助動詞の「接続法」という形です。
【38】der Spruch: 「此の金言は」ですから dieser Spruch と云いそうなところですが定冠詞が用いてあるところに御注意。定冠詞を用いる場合でも最も多いのが、dieser と同意の『此の』という用法です。
【39】heißen: 『……という文句である』という時に用いる heißen です。こういう場合には他になお lauten という動詞も用います。
意訳:私は私のパイプを探している。いったい何処へまぎれこんでしまったんだろう?何処を探しても見つからない。ところが、どうしても探し出さないと困るんだ。出てこないと煙草を吸うわけに行かないのだ。巻煙草というやつは御相憎なんでね。パイプタバコしか無いんだ。
いったいどうも、物を探しはじめると必ずこういうことになって来る。ありとあらゆる物が出て来るが、探している物だけは絶対に出て来ない。もう用のなくなった眼鏡が出て来る。動かなくなった時計が出て来る。もう通用していない札が出て来る。要するに、探してもいない有りと有らゆるものが全部出て来る。たた、今ちょうど探している物だけは絶対に出て来ない。
ことによると、むしろ探さない方が好いのじゃないかしら?パイプパイプと云って探すもんだから、それで出て来ないんじゃないかしら?むしろしばらく考えないでいた方が、ひょっこりひとりでに出て来るのじゃないかしら?聖書にはなるほど『尋ねよ、さらば見出さん』と云ってある。大昔はまあ、そうだったのかも知れない。しかし当今の世では、此の文句はむしろ『尋ねよ、さらば見出さざらん』と云った方が本当じゃないだろうか。