Wednesday, February 3, 2021

E. C. R. ロラック「火事」(1946)

事件はイギリスのデボン州の田舎で起きる。第二次世界大戦中のことで、この頃はまだ都会と田舎の差が大きかった。デボンの住民は昔ながらの泥臭い生活を送り、都会の人間や都会的なものに対して猜疑心や嫌悪感を抱いていた。

セント・サイレスも伝統的な生活を愛する老人だった。畑をたがやし、ほぼ自給自足の生活を送っている。彼の家のはなれには庭付きの小さな小屋があった。彼は友人の紹介でやってきたニコラス・ボーンという若い男にその小屋を貸すことになる。

ニコラスは頑強な体の持ち主で、田舎暮らしが大好きだ。農業の知識もある。毎日黙々と働いて、小屋の中や周囲の庭を整備していく。セント・サイレス老人もニコラスが来たことを喜ぶ。

ニコラスが借りた小屋をもう一人の人物が借りようと思っていた。それがトミー・グレッシンガムという都会者とその友人たちである。彼らは小屋をあくまで「物件」とみなし、売り買いをして儲けを得ようと考える。つまり、土地と家屋と人々の生活が有機的に一体化した伝統的生活が、資本主義的な分断や断片化の危機にさらされている状況を本書は描いている。

このような対立的状況においてニコラスの小屋は火事で焼け落ち、ニコラス自身も焼死するのだ。小屋の内装に使う可燃性の薬品に火がつき、寝ていた彼は逃げ遅れたのだと考えられた。

しかしセント・サイラス老人に彼を紹介した友人は、ニコラスは性格的に可燃物を小屋に置くような不用心な男ではないと主張し、スコットランドヤードのマクドナルド警部に調査を依頼する。

マクドナルド警部はまず地元警察の事故による火事という見立てを否定する。ニコラスの性格、暮らしぶり、過去を知れば知るほど、うっかり火事を起こすようなずぼらさがまったくない人間だとわかったからである。地元の警察は、ニコラスが住んでいたような茅葺きの小屋の火事は見慣れていて、「いつもの火事」と片づけてしまうのだが、そうした地元の人々の判断から一歩離れて客観的に事件を見るのがマクドナルド警部のすぐれたところである。

彼はまたじつに論理的であり、しかも事実を丁寧に追っていく。容疑者と接するときも相手の気持ちをおもんばかる、じつに立派な態度を示すし、相手が議論をしかけてきたときは、堂々とそれを上回る議論で切り返す。名探偵の多くはよく奇矯な癖を持っていたりするが、マクドナルド警部は徹底して礼儀正しい。

わたしは本編がさほど優れた作品とは思わないけど(都会と田舎の対立の構図が最初のうちは強調されているのに、それが途中から雲散霧消してしまうのだ。また、都会育ちのジューンが義父であるセント・サイレスと対立して強い印象を残すが、それは最初の一章だけで、その後ジューンは伝聞の形でしか物語にはあらわれない。物語の焦点が定まっていないという感じがする)、ただ戦時中の疎開の様子がよくわかる、貴重な資料にはなっている。

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