Wednesday, April 21, 2021

カク・ミチオ 「ハイパースペース」(1994)

 リーマン幾何学からアインシュタイン、そして量子力学という線でハイパースペースつまり多次元の問題を解説した、非常にわかりやすく興味深い科学入門書である。このブログでは何度も書いたが、門外漢向けに書かれた科学的入門書を書かせたらアメリカは断トツの実力を発揮する。もちろんわたしのような素人読者は議論の細部までは理解が行き届かないが、しかし大きな図柄はちゃんと把握できるように、工夫されている。しかも文章は生きが良く、難解に陥らない。アメリカにはこういうものが書けるライターが何人もいる。おそらく日米のこの差は科学力そのものの差を示しているのだと思う。

本書の要点はわれわれが住む三次元世界(時間を四つ目の次元とする考え方ももちろんある)の現象は個々ばらばらのように見えても、それを高次元からとらえなおせば、簡明・統一的な姿にまとめあげることができるということだ。

これは実は文学の研究も同じである。たとえば一つのテクスト内におけるさまざまな事象は、テキストと同じレベルに留まっている限り、それを統一的に把握することは出来ない。せいぜい事象の分類・整理ができるだけである。それを本当の意味で「把握」するには、テキストのレベルを超えたレベルに到達しなければならない。そのときはじめてさまざまな事象に簡明で統一的な姿を与えることが出来る。

カクは本書の中ほどでアインシュタインの相対性理論とスタンダード・モデルについてこんな比喩的物語を提出している。三次元の世界に美しい多面体の水晶があると考えてほしい。これがある日突然粉々に爆発する。ビッグバンである。破片は二次元世界にふりそそいだ。二次元世界の人々は破片を集めて研究する。この破片には二種類あるようだった。綺麗に平らな面を持つものと、そうでないものである。もちろん前者は多面体の表面の破片であり、後者は内部の破片だが、そんなことは二次元世界の人々にはわからない。しかし研究の末、彼らは前者からある理論を導き出した。それがアインシュタインの相対性理論である。そして後者からはスタンダード・モデルを導き出した。さて、ここに大天才が出現し、三次元世界を考えれば相対性理論とスタンダード・モデルは一体的な理論になることを証明する。これが超ひも理論である。

わたしはこれを読みながら、文学のことを考えた。これと同じようなことが文学でも起きてないだろうか。カクは結晶を外側と内側に分割しているけれど、これはたとえば形式と内容という古くからある問題に関係づけられないだろうか。わたしはクロード・ホートンの「わが名はジョナサン・スクリブナー」の後書きでメタレベルとか、この作品の形式と内容の不可思議な関係について簡単に説明をしたのだが、もう一度この問題を考え直してみたくなった。



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