Sunday, May 23, 2021

スタインベックの未発表作

ガーディアンを読んでびっくりした。こんなにびっくりしたのは本当に久しぶりだ。ジョン・スタインベックが1930年頃に書いていた人狼・ミステリ小説が刊行されるのだという。出版社に受け入れられず筐底に納められたままだったのを大学の文学研究者がスタインベック財団を説得して出版にこぎつけたようだ。大快挙である。

もちろんノーベル賞作家が書いたパルプ小説という興味もあるが、しかしこの作品から発せられる光によって、スタインベックの他の作品が今までとはちがった陰影を見せるのではないかと、わたしは期待している。フォークナーの作品の中で「サンクチュアリ」は金儲けのために書かれたやっつけ作品と見なされたりするが、わたしはあれは間違いだと思う。まさしく「サンクチュアリ」をフォークナーの中心にすえ、他の作品を読み解く鍵にしなければならない。アメリカの上流社会を描いたイーディス・ウオートンが、父と娘の生々しい相姦関係を短編小説にしていたことがわりと最近わかったが、われわれはそれを珍品とか単なる彼女のファンタジーだと見なさず、逆にそれこそが他の小説に描かれていない秘密の核心なのだとして尊重するべきだと思う。スタインベックのリアリズムがある種のファンタジーを抑圧し、隠蔽することによって成り立っているとしたらどうだろう。抑圧と隠蔽のシステマチックな働きを見いだせれば、従来の読解をひっくり返すような読解が可能になるかもしれない。じつはわたしはそのようなファンタジーの存在をスタインベックの作品のあちらこちらで感じるのだが、今回出版される作品によってそれがより明確化されるのではないかと思う。

この作品は英語のタイトルを Murder at Full Moon という。今年一番の文学的大事件である。

関口存男「新ドイツ語大講座 下」(4)

§4.  Solch ein kleines Kind weiß von gar nichts. そんな 小さな子供は何も知らない。  一般的に「さような」という際には solch- を用います(英語の such )が、その用法には二三の場合が区別されます。まず題文...