Mehr Physik!
MUTTER: Wer hat denn1 das Eis unten2 in den Eisschrank3 gelegt4?
FRITZCHEN: Ich, Mutti5!
逐語訳:Mehr Physik! もっと理学を! MUTTER: 母: Wer 誰が denn いったい das Eis 氷を unten 下へ in den Eisschrank 冷蔵庫の中へ hat gelegt 置いた[のか]? FRITZCHEN: 小フリッツ Ich, Mutti! 僕だよ、お母さん!
註:【1】denn: 『いったい』、『そもそも』(疑問文につきものの助詞:Wo denn? いったいどこですか? Wann war es denn? それはいったい何時でしたか?)もう少し念入りに『いったい全体』とか『いったいそもそも』とか云う時には denn eigentlich です:Wer hat es denn eigentlich gesagt? いったいそもそも誰がそんな事を云ったんだ?
Unten と unter とは品詞がちがう!【2】unten: unter という前置詞と unten という副詞とを混同してはいけません。前置詞は名詞とともに用いるもので、副詞はそれだけで独立して用います。同様に、über という前置詞に対しては oben (上方に)という副詞があり、in に対しては innen (内部に、内側に)があり、außer に対しては außen (外に)があり、vor に対しては vorn または vorne (前方に)があり、hinter に対しては hinten (うしろに)があります。すこし前の Professor Meier のところに Sein Kopf hat nur hinten Haare (かれの頭はただうしろの方にのみ毛を持つ)という文句がありましたが、あのhinten が此処の unten と同じような副詞です。
【3】Eisschrank, m. 英では refrigerator。Eis は「氷」、Schrank は「戸棚」あるいは「箪笥」です。なお Geldschrank (金庫)、Kleiderschrank (衣類用の箪笥)、Bücherschrank (本箱)をも覚えておくこと。――なお、ここで特に注目していただきたいのは、unten in den Eisschrank という、ちょっと妙な結合法です。分解すると unten は『下へ』、in den Eisschrank (『下へ、冷蔵庫の中へ』)というと、日本語に訳してみた感じではチョット変てこなものですが、これがドイツ語では最も頻繁に用いられる形式であることを知っておく必要があります。つまり『冷蔵庫の下方の段へ』(in das untere Fach des Eisschranks)とでもいうところを、二箇の副詞句に分けて表現するのです。他の例で云うと、『あすこの角のところに』を dort an der Ecke (彼処で、角に)、『此処の部屋の中に』を hier im Zimmer (此処に、部屋に)、『私の前の机の上に』を vor mir auf dem Tisch、『私の前の机の上へ』を vor mich auf den Tisch と云います。
【4】gelegt: legen (置く)の過去分詞。『置く』という動詞の普通用いられるものには legen, setzen, stellen の三つがあります。また「入れる」という意味のときには、その外になお stecken, tun という動詞がありますから、本文の場合には gelegt でも gesetzt でも gestellt でも gesteckt でも getan でもいいわけです。
【5】Mutti: Mama というのと同じ。-i という語尾は -chen、-lein と同じような愛称語尾の -y、-ie とおなじです。Vater を Vati と云い、Heinrich (英の Henry)を Heini と云い、Wilhelm (英の William)を Willi と云い、Schatz (愛人)という代りに Schatzi と云ったりするのなどがそれです。此の -i という愛称語尾を人名につけることは、本国のドイツよりは、むしろ瑞西に於て昔から習慣になっております。
MUTTER: Das ist aber falsch6. Das Eis muß zuoberst7 im Schrank8 liegen.
FRITZCHEN: Ja aber9 warum? Stellt man nicht das Feuer unten, wenn man den Topf10 erwärmen11 will?
註:【6】falsch: 英語の false [フォールス]と同語。(用法の上からはむしろ wrong ですが)。
【7】zuoberst は zu oberst と書くこともあります。『箪笥の一番上に』という代りに『一番上に、箪笥の中に』(zuoberst im Schrank)と二部にわけて云うのは、註3 で述べた通り。
zuoberst 一番上に
zuunterst 一番下に
zuvorderst 一番前に
zuhinterst 一番うしろに
zuinnerst 一番内部に
zuäußerst 一番外側に
zutiefst 一番奥に
【8】Schrank, m. は Eisschrank を簡単に略した形です。いったいどうもドイツ語ということばは、長い厄介な合成名詞が多いので、実際これを用いるときには必ずしも其のままの長い形で用いるのではなく、すでにわかり切っているときには「規定部」(すなわち前半部)の方を省略して「基礎部」(すなわち後半部)だけで間に合わせることが多いのです。また或種のものにあっては、頭っから基礎部だけ云って意味の通ずるものもあります。たとえば女中は本当は Dienstmädchen、Hausmädchen ですが、普通単に Mädchen と云っています。また鉄道の駅は Eisenbahnstation、Bahnstation ですが、これも単に Station と云っています。Schrank だけはまだそこまで行きません。それは、Geldschrank (金庫)や Bücherschrank (本箱)などが冷蔵庫にまけないほど吾人の日常生活の中に隠然たる勢力を張っているからです。
【9】Ja aber は分解した意味を考えないで、このままの形を「だって」「でも」という意味の句としておぼえること。たとえば、何か食べに這入って、相手に勘定を払わせてしまったのち、清算するような顔をして、十円札一枚這入っていない財布を取り出して、「僕の分を取って下さい、いくらになりますか?」なんてな事を云って見る……相手が「いや、いいですよ」というと、「でも……」と云って言葉尻を濁します。あの『でも……』がチョウド独逸語の ja aber......です。でも払うのかと思うと、別に払いもしないようですがね。――これはよく用いられる句なので、ja の発音もヤーではなく、短かく「ヤ」といいます。
【10】Topf, m. 英語の pot (鍋)です。英語と独逸語とでは p と t とがあべこべになっています。
【11】erwärmen (温める):変温のない erwarmen の方は「温まる」「温くなる」という自動詞ですから、区別しておぼえておくこと。
MUTTER: Das schon12. Beim13 Abkühlen14 aber ist es gerade15 umgekehrt16.
FRITZCHEN: Wieso17 denn aber, Mutti?
逐語訳:MUTTER: Das それは schon 申すまでもないこと。aber しかし beim Abkühlen 冷やす時には es それは gerade ちょうど umgekehrt 逆 ist なのだ。FRITZCHEN: aber しかし Wieso どうして denn いったい、Mutti? お母さん? 註:schon には『勿論』、『申すまでもなく』の意あり【12】Das schon は、完全な形で云えば Das tut man schon (それはもちろんそう云う風にするさ)です。けれども、この二語が、このままの形でしばしば用いられる『それはまあそうだがね』という熟語と思ってさしつかえありません。schon (既に)は『申すまでもなく』の意に用います。すなわち、わざわざ口にして云うまでもなく既に、というところから生じた用法です。したがって、相手の方の口を封じ、言分を封ずるために用います。たとえば Schon gut! といえば『わかったよ!』で、ほとんど『うるさいから黙れ!』といったようにきこえます。Schon wahr! (それは勿論本当だ!)といえば、そんな事は云われなくたってわかり切ったことだ、しかし問題はそんなことでは片づかない、といった風にきこえます。
【13】beim: bei dem です。bei は『云々する際』、『云々する時』の意です:beim Essen (食事の際)、beim Besuch (訪問の際)など。英語の by (……によって)と間違えないようにすること。「によって」は durch (と四格)です。
【14】Abkühlen: abkühlen (冷やす、さます)の名詞化。kühl (英:cool)より。
【15】gerade: 『ちょうど』、『正に』(Es ist gerade fünf Uhr ちょうど五時です、Dort kommt er ja gerade 彼処へちょうどあの人がやってきた!)
【16】umgekehrt: 逆、反対、あべこべ。
【17】wieso は warum と同意。ただし通俗語です。warum が「何故?」なら wieso? は「どうして」ぐらいのところです。
MUTTER: Das18 mußt19 du ja20 eigentlich21 schon wissen, Fritzchen? Ich habe es ja22 in deinem Physik-Buch23 gelesen. Wenn das Eis oben liegt, sinkt die abgekühlte24 Luft nach unten, weil kältere25 Luft schwerer26 ist als27 wärmere28. Legt29 man aber das Eis unten hinein, dann30 wird31 nur die untere32 Luftschicht33 abgekühlt. Die kalte Luft steigt nicht nach oben, sondern bleibt lange34 am Boden35 liegen36. Da37 kommt ja Vati38 in die Küche; frage ihn39 mal nur40, ob41 ich recht habe42.
逐語訳:MUTTER: Das それ位のことは du おまえ eigentlich 本当は schon もうチャント wissen 知っている mußt 筈です ja よ、Fritzchen フリッツヒェン! Ich わたしは es そのことを in deinem Physik-Buch おまえの理科の本の中で habe gelesen 読んだ ja のですよ。Wenn もし das Eis 氷が oben 上に liegt 横たわ[れば]、kältere Luft より冷めたい空気は wärmere より温かい[空気] als よりも schwerer ist より重い weil から die abgekühlte Luft 冷やされた空気は nach unten 下方にむかって sinken 沈む。aber 然し man 人が das Eis 氷を unten 下に Legt hinein, 入れると、dann そうすると nur die untere Luftschicht 下方の空気層のみが wird abgekühlt 冷やされる。Die kalte Luft つめたい空気は nach oben 上の方へは steigt nicht 昇らない sondern で lange 長い間 am Boden 底に bleibt liegen 横たわったままになってしまう。Da ちょうど其処へ Vati お父さまが in die Küche 勝手元へ kommt ja おでかけあそばした。ich 私が recht habe 正しい ob かどうか mal nur ちょっと ihn お父さまに frage たずねてごらん。
註:【18】Das は四格。
【19】mußt (=müssen): müssen という助動詞は必ずしもいつも「ねばならぬ」ではなく、『……の筈だ』という意味の場合があります。
【20】ja: 前述の(註12)schon と同じような語。
【21】eigentlich (元来は、ほんとうは)ドイツ人は普通の会話によく此の eigentlich ということばを用います。相手が何か少し穿ったことを云うと Eigentlich ja! (ほんとうはマアそうでしょうね)などというのは日本語と同じですが、その他、「実は……」といったような時にも eigentlich を用いますから、日常会話は eigentlich だらけです。Eigentlich habe ich es Ihnen schon mehrmals gesagt (実はその事はもはやたびたび貴君に申しあげた筈ですがね)など。
Habe ich es doch......! (文頭の定形倒置と doch)【22】ja: たびたび出て来る ja ですが、此処の使い方はハッキリと ja の用法を示しているからよく睨んで下さい。『だって……なんですもの!』といったような型の文には ja または doch を入れるのです。doch を入れると、ja よりも、もっと力が強くなります。――それから、直接本文とは関係ありませんが、同じ意味合いの事を Habe ich es doch in deinem Physik-Buch gelesen! (だって私現にその事をあなたの理科の本の中で読んだんですもの!)とも云える点に注目して下さい。『だって……ですもの』という doch を用いる時には、ich habe の代りに habe ich の語順を用いることが多いのです。
【23】Physik-Buch (理科の本)はもちろん Physikbuch と綴ってもよろしいのです。ちょっと断わっておきますが、多少ドイツ語を囓った人だと、理科の本ならどうしてたとえば das Lehrbuch für Physik などとでも云わないのだろうという疑問が生ずるかも知れませんが、これは通俗のくだけたドイツ語なので、数学とか語学とか、その他学校の科目を指す語はすべてこういう風な簡単な結合で用いられるのです。たとえば「数学の時間」を Mathematik-Stunde。「地理の先生」を Geographie-Lehrer と云います。
【24】abgekühlt: 前出 abkühlen の過去分詞。「冷やされた」
【25】kältere: kalt (つめたい)の比較級が kälter (英:colder)。
【26】schwerer: schwer (重い)の比較級が schwerer。
【27】als = 英の than。
「……の」、「……なやつ」という英語の one は独では不用【28】wärmere: warm (温かい)の比較級が wärmer。――wärmere の最後の -e という語尾によって、次に Luft が省かれてあることがわかります。wärmere はつまり「暖いの」、「暖かいやつ」です。此の「……の」は英語では one で表現し、warmer one (暖かい方のやつ)などと云いますが、ドイツ語には性を表現する -e とか -er とか -es とかいうものが形容詞につきますから、英語の one に相当する語は不用です。たとえば、『食べられる茸もあるが、然し食べられないのもある』は、英語でなら There are edible mushrooms, but there are inedible ones, too. ですが、ドイツ語では Es gibt eßbare Pilze, aber es gibt auch nichteßbare でよろしい。nichteßbare の次には Pilze が省いてあると見てもよく、あるいはまた ones のようなものが省いてあると思ってもいいわけです。『かれの生涯は波瀾万丈の生涯であった』なら、英語は His life has been a stormy one ですが、ドイツ語では Sein Leben war ein stürmisches です。
【29】Legt man: 副詞が先に来て、主語が後に来ています。この逆順(即ち定形倒置)は、突然文頭で用いると、普通は疑問文章になるのですが、その外に、只今の場合のように、Wenn man......legt とおなじ意味となることもあるのです。たとえば、『今日雨が降らなければ、明日にでも降るさ』は Wenn es heute nicht regnet, so regnet es vielleicht morgen とも云えますが、また Regnet es heute nicht, so regnet es vielleicht morgen とも云います。この場合は後者の方が好いドイツ語なのですが、どんな場合にどっちが好いかは、なかなかむつかしい問題です。
【30】dann の代りに so ともいう。
【31】wird......abgekühlt で『冷やされる』という受動の形になります。『……される』という受動形は werden という助動詞を元にして、それに過去分詞を添えて作ります。
【32】unter-e: 此の unter は、前置詞としての unter とは全然別物であることは、すでに格語尾がついていることによってもわかる筈です。この場合は形容詞です。これ、及び ober-、vorder- 等の類似の形を、全註2 の副詞と対照しておぼえること。
unter- 下方の
ober- 上方の
vorder- 前方の
hinter- 後方の
inner- 内部の
äußer- 外部の
【33】Luftschicht, f. (空気層)――此の die Schicht (層)という語をよくおぼえましょう。aus allen Schichten des Volkes (国民の各層から)とか何とか云って、現在ではしきりに用いられる流行語です。
【34】lange (長い間)という副詞は、lange Zeit から来ているために -e の語尾がついています。
【35】Boden, m. (底)英語の bottom (底)と形もよく似ています。――元来 -m であったのが、英語では正しく保持されていて、ドイツ語の方では崩れて n になってしまった例は、此の Boden 意外に、Busen, m. (胸)[英:bosom]、selten (稀に)[英:seldom]など、たくさんあります。
【36】bleibt liegen (依然として横たわったままでいる):liegen が不定形のままで附加される点に注目。bleiben (……にとどまる)という動詞は、いわば一種の助動詞と云ってもよいもので、他の動詞の不定形とともに用いると『相変らず云々する』、『依然として云々したままでいる』の意になります。Tabakrauch bleibt lange in der Luft schweben 等、前掲『bleiben の用法』参照のこと。
【37】Da kommt は英語の There comes です。(そこへやってくる)英語の There comes とか There stands とかは、その there が多少具体的に目前の光景を指す時にはドイツ語では da で訳し、然らざる場合には es で訳します。此処は Da によって、すでに父の姿が見えたことになります。もし、まだ姿も見えず、足音もきこえないのであったら Es kommt ja Vati...... 云々でもよいところです。
【38】Vati: 前の Mutti と同じような子供用の言葉(Kindersprache)で、Papa とか Pappi とかいうこともあります。英:dad、daddy.
【39】frage ihn: fragen は四格支配!
【40】mal nur (ちょっと)は、よく命令法に附加される助詞で、日本語の「ちょっと」と全然同じ。英語では just です。just ask him!
【41】ob: 『……かどうか』、『はたして……や否や』(英:whether、時には if)
【42】recht habe: 『理を持つ』、即ち『言分が正しい』、『言うことがもっともだ』です。これは会話でもよく用いられる句ですが Sie haben recht! または Da haben Sie ganz recht! といえば「なるほど仰せの通りです」という、相槌を打つ文句です。英語だけは『あなたは正しくある』(You are right)と、「ある」という動詞を用います。が、其の他の語は凡てドイツ語の通り「持つ」という動詞を用います。仏語:Vous avez raison [ヴー・ザヴェ・レーゾン]、伊語:Ella ha ragione [エルラ・ア・ラッヂョーネ]、西班牙語:Tiene Vd. razon [ティエネ・ウステ・ラソン]。
FRITZCHEN: (grinsend43): Ich habe ihn schon gefragt, da hat er mir aber gesagt, das Eis gehöre44 natürlich zuunterst in den Schrank.
逐語訳:FRITZCHEN (grinsend にやにや笑いながら):Ich 僕は ihn お父さんに schon もう habe gefragt たずねたんだ。da すると aber 然し er お父さんは mir 僕に hat gesagt 云ったんだ:das Eis 氷は natürlich もちろん zuunterst 一番下へ in den Schrank 冷蔵庫の中へ gehöre 属する(入れるべきものだ)と。
註:【43】grinsend: -end という語尾は英語の -ing にあたり、云々しながらの意。grinsen は「笑う」ですが、lachen (笑う)や lächeln (微笑む)とはちがって、変な笑い方をする、にッと笑う、という時にしか用いません。意味ありげにニヤニヤ笑うのは必ず grinsen で、lächeln とは云いません。西洋人に云わせると、日本人の lächeln は、時と場合を弁えないために大抵 grinsen として感ぜられるそうです。
【44】gehöre: gehören (属する)英:belong ですが、gehört とならないで gehöre となっているのは、べつに ich が主語というわけではなく、「接続法」という形です。gehört が「属する」という邦語に該当するとすれば、接続法の gehöre は「属すると」、(即ち「属する由」、「属する旨」)にあたります。接続法というやつは、根本的にやらないと、ちょっと簡単には説明しにくい項目で、また正規の文法過程に属する事項ですから、これだけは一つ是非講座で研究して頂きます。――次に gehören (属する)という動詞の此の場合の用法に一寸御注意下さい。ここのは普通の用法ではありません。即ち in den Schrank (冷蔵庫の中へ!)という、方向を示す句がついています。方向を示す句がある場合の gehören は、『何処そこへ入れなければならぬ』或いは『何処そこへ持って行くのが正しい』という意味です。たとえば『wenn は文章の一番最初へもって行く』は Das wenn gehört an die Spitze des Satzes です。また、子供の画いた画を評して、『ここにはまだ窓がなくっちゃ』と教えてやるときには Hier gehört noch ein Fenster dran というでしょう。
意訳:物象落第!
母:だあれ氷を冷蔵庫の下の段に入れたのは?
坊や:僕だよ。
母:駄目よ、そんなことをしちゃあ。氷は冷蔵庫のいちばん上のところへ入れるものよ。
坊や:どうして? だって、お鍋を温めるときには、火を下へやるでしょう?
母:そりゃアそうだけど、冷やすときは逆よ。
坊や:それはどういうわけ?
母:それくらいな事は、坊や、モウちゃんと知っていなくちゃならないはずよ。だって坊やの物象の本にそう書いてあるじゃないの。つめたい空気は温かい空気より重いから、氷が上にあれば、冷えた空気が下の方へ降りて行くでしょう? ところが、氷を下へ入れちゃったら、空気は下の方だけしか冷めたくならないでしょう? つめたい空気は上昇しないから、いつまでも底の方に溜まってるわけじゃないの。ちょうどお父さまがお勝手へお見えになったから、お母さまの云う事がちがってるかどうか、うかがって見ると好いわ。
坊や:(にやにや笑いながら)うかがったんだよ。うかがったら、もちろん氷は冷蔵庫のいちばん下へ入れるとおっしゃったんだよ。