フランク・ケイン「やつらの犯罪」
フランク・ケインはサスペンスやハードボイルドを書いたブルックリン生まれの作家である。本作はジョニー・リッデルという探偵を主人公にしたシリーズものの一作。
ブラジルからアメリカに宝石が密輸入されていた。その犯罪をあばくため、ある男が密輸に使われているとおぼしきクルーズ船に乗客のふりをして乗り込むが、ある嵐の晩、何者かに殺され、海に捨てられた。その直後に捜査の継続を依頼されたジョニー・リッデルがおなじ船に、やはり客のふりをして乗り込む。殺された前任者はなにを突き止め、なにを追っていたのか、そして誰に殺害されたのか、それを明らかにするのが彼の任務だ。クルーズ船だからいろいろな客が乗っている。普通の夫婦もおれば、不倫の恋にふける男女もある。大金持ちのビジネスマンもいれば、名高い悪党も船に乗っていた。一見華やかなカリブ海旅行をしながら、リッデルの捜査が進んでいく。
最初の数章は非常にテンポ良く進み、面白かったが、そのあとは豪華客船の様子やら登場人物の過去の話がたてこみ、とくにアクションもなく、ひたすら与えられる情報を消化したという感じだ。過去の話も、ハリウッド女優の苦労話や、政略結婚の結果、お互いに相手に嫌気がさした夫婦の物語など、あまりにもありがちなもので、ちょっとさえない。もう一つ文句を言うと、ところどころにあらわれるハードボイルドを気取った書き方がややぎこちない。とってつけたような印象を与える。最後は乗客全員を集めてリッデルの推理が示されるのだが、ハードボイルドと本格推理とアーサー・ヘイリーの「ホテル」みたいなドラマが入り混じった変わった一作になっている。