Sunday, January 23, 2022

ジェフリー・R・ウィークス「空間の形」

本書 The Shape of Space は「フリーランス数学者」であるウィークスが書いたトポロジー入門書である。たまたま手に入れた本なのだが、入門書の傑作である。トポロジーの基礎的な概念がわかりやすく、直感的に示されているだけではない。豊富な問題を通して読者に考えさせるようにも作られている。

著者は高校生の時にトポロジーに興味を抱いたが、大学に入っても適当な入門書や授業に巡り会えなかった。だから大人になってから、著者とおなじようにトポロジーに興味を持つ若い人々に向けて解説書を書いたということらしい。ある意味で、彼は知識欲にうずく若き日の自分のためにこの本を書いたのだ。だからこの本はただ知識を伝達するだけの冷たい本ではなく、どこか暖かみを感じさせる。しかも、手取り足取りすべてを解説し尽くすのではなく、若い知性にみずから跳躍を試みさせ、知的体力をつけさせようとする、名教師の配慮に満ちた本である。2002年に出た本だが、是非とも翻訳してもらいたいものだ。

作者は Torus Games という無料のゲームをネット上に公開している。これをダウンロードしていろいろと遊んでおけば、本書もかなり理解しやすい。あり得ない空間を直感的に把握するいい訓練になる。

エドワード・アタイヤ「残酷な火」

  エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...