Wednesday, January 5, 2022

モス・ハート「エデンの気候」

ちょっと変わったタイトルだが、これはエドガー・ミッテルホルツァーの小説「影が動く」(Shadows Move Among Them) をドラマ化したものだ。モス・ハートは1904年にニューヨークに生まれ、1961年に亡くなるまで劇作家、舞台監督として活躍した。彼の最大のヒット作は「マイ・フェア・レディ」である、と言えば、ああ、あの人かと思い出す人もいるだろう。30年代から50年代にかけて舞台や映画で大活躍した男だ。彼がミッテルホルツァーなんてガイアナ出身の、いわば周辺的な作家の作品を戯曲化していたとは識らなかった。

周辺的な作家とはいえ、私はミッテルホルツァーを高く評価している。彼のサスペンス小説を二冊翻訳したが、これは本当に面白い。が、その核心部分にあるものがなにか、まだ判然とはつかめていない。もどかしい作家でもある。

この戯曲、あるいは原作の物語の筋を簡単に紹介する。ハームストン牧師はもともとはイギリス人だが、家族とともにガイアナのジャングルの中に移り住み、そのあたりの現地の人たちをまとめて、小さなコミュニティーをつくっていた。そこで現地の人に西洋の文化を教え、自由を貴び、大らかに性を楽しむ、ユートピア的な世界を造り上げようとしていた。しかしすぐにわかるのだが、彼は規律を破る者にはひどくサディスティックな罰を与える。このあたりは過去のファナティックな宗教的指導者を思い起こさせる。

さて、このコミュニティーに牧師の甥であるグレゴリーがやってくる。彼は戦争に従軍して精神を病み、さらに妻を殺したような気持ちになっている(実際に殺したのかどうかは、よくわからない書き方となっている)。彼はそんな自分を癒やすために文明を離れ、ハームストン牧師のコミュニティーに加わる。牧師の家族(とりわけ二人の若い娘)と付き合いながら、彼は元気を取り戻していくのだが、その過程は牧師の家族にも大きな変化をもたらす。

一読してこれはかなり複雑な物語である。まず文明と野蛮の対立がある。グレゴリーは都会の出身で、牧師の住む世界はジャングルの中だ。しかし牧師の作るコミュニティーの人々は高い教養とすぐれた芸術的感性を備えている。ある意味では牧師のコミュニティーのほうが人間的でもある。

次に意識と無意識の対立がある。グレゴリーはときに我を忘れて妻に対する憎悪をあらわに表出する。そして牧師の娘の一人を妻と勘違いして彼女を殺そうとする。彼は自分の心の奥にある異常な衝動に気づき、コミュニティーを出ようとまで考える。

さらに現在と過去の対立も見られる。ジャングルの中の人々にとって過去は終わったことではない。ガイアナの過酷な奴隷制度と血塗られた反乱の記憶は今に至るも残っており、不思議な形で彼らに取り憑いているのだ。

そして少女と成熟した女の対立もある。牧師には二人の娘がいるのだが、彼らはグレゴリーに恋をし、一人は彼と結ばれ、もう一人は失恋を通じて大人の女へと変貌していくのだ。

さまざまな側面を持つ物語だが、決してばらばらの主題を無理にまとめあげた印象はない。ジャングルの謎めいた生命力と、この土地独特の奇怪な迷信を背景に、すべての事件が夢幻的に進行していく。

ミッテルホルツァーの核心をわたしはまだ掴めていない。ただ対立物が入り組み合い、交錯するこの作品を読みながら、ラカンの「現実はファンタジーのように構成されている」という洞察がヒントを与えてくれそうな気がした。

独逸語大講座(20)

Als die Sonne aufging, wachten die drei Schläfer auf. Sofort sahen sie, wie 1 schön die Gestalt war. Jeder von ihnen verliebte sich in 2 d...