Wednesday, March 2, 2022

クリスティーにむかって

アガサ・クリスティーは十代の頃に読みあさり、今はもうみんな忘れた。大筋を覚えているものが二三あるだけだ。歳のせいと言うより、昔からミステリの筋書きはすぐに忘れる。たしか丸谷才一だったろうか、ミステリを読んでいくうちに、それがかつて読んだことのある本だと気づいた、などと書いていた。先日、知り合いの三十代の女性も、テレビで面白そうな映画をやっているので、見てみたら、何年か前に見た映画だったと言っていた。タイトルは変わっていないはずなので、すっかり忘れていたということだろう。年に何十冊も何十本も本や映画を見ていたら、そのうち忘れてしまうのも仕方がない。

ガーディアン紙にミステリ作家のジャニス・ハレットが面白い記事を書いていた。アガサ・クリスティーを読み始める人におすすめの本を何冊かあげているのだ。ちょうどわたしも久しぶりにクリスティーを読み返してみようかと思っていたので、参考になった。

ハレットが「エントリー・ポイント」としてあげているのは「牧師館殺人事件」。ハレットにとってこの作品は「滑稽で、機知にあふれ、鋭い観察眼を持つクリスティーの名作」なのだそうだ。

ハレットがあげる「最高作」は「そして誰もいなくなった」。これはさすがにわたしでもぼんやり筋を覚えている。十人の人間がとある島に呼び出され、一人一人殺害されていく物語である。驚くべき作品だが、これにはそっくりな先行作があって、つい最近再刊された。グウェン・ブリストウとブルース・マニングが共著で書いた「見えない招待主」という作品で、クリスティーがこの作品を知っていたかどうかは不明。わたしとしてはこちらも一読をすすめたい。

ハレットは「ディナーパーティーの会話にもってこいの作品」として「輝く青酸カリ」をあげている。あまり知られていない作品で、ポワロが登場する短編「黄色いアイリス」を長編化したものらしい。

「名作」としてあげられているのは「オリエント急行殺人事件」。わたしは列車の中で犯罪が起きるという物語が異常に好きなので、この話はかなりよく覚えている。たしかにクリスティーを読むなら必読の一冊だろう。

「安楽椅子旅行者のための一冊」としてハレットがあげているのは「メソポタミア殺人事件」。クリスティは旦那と一緒に考古学調査にイラクへ出かけた経験がある。この作品にはその経験が生きているそうだ。わたしは間違いなくこの本を読んでいるが、筋はまったく記憶にない。

「毛色の変わった一冊」としてハレットは「セブン・ダイアルの謎」をあげている。出版当時はクリスティーらしくないとして批判されたらしいが、どうやらコメディーっぽい仕上がりになっているらしい。これもさっぱり覚えていない。

ハレットが「暗い作品」としてあげているのは、クリスティーが自分の作品のなかでもお気に入りの一つであった「無垢の試練」である。「機会を逃し、正義が果たされず、家族への不当な仕打ちが正されることのない悲劇的な物語」だそうだ。殺人事件であるだけでなく、心理的なスリラーにもなっていて、読んでいて居心地が悪くなるともハレットは言っている。

では「衝撃作」としてハレットがあげている作品はなにか。だいたい見当がつくと思うが「アクロイド殺し」である。あれは確かに衝撃的だが、わたしは最近「アクロイド殺し」に奇妙な問題が含まれているような気がしてさかんに考え込んでいる。あの作品の「歪み」はまだ充分に解明されていない。

「影響力のある一作」は「五匹の子豚」だ。残念ながらこれもまったく覚えていない。しかし二十一世紀に入ってからもその影響力が見られ、いくつもの類似作が発表されているのだという。

この記事の一番最後にはこんな小見出しがついている。「クリスティーが好きなら、次にどんな作家を読むべきか」。ハレットの答は「ドロシー・L・セイヤーズの作品、ソフィー・ハナのポワロ・シリーズ、そして横溝正史の『本陣殺人事件』」。昨年横溝正史が英語に翻訳されて、ミステリファンのあいだではかなり評判になった。島田荘司なども同時に訳されたようだが、時代の古い横溝の作品のほうが人気が高かった。しかし横溝がクリスティーを連想させるというのはじつに面白いではないか。横溝自身はディクスン・カーに影響を受けたと言っていたような気がするのだが。

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