深沢裕次郎の「応用英文解釈法」(Collection of English Idioms)をずっと書き写してきたが、少し方針を転換しようと思う。
深沢の著作は一千頁をはるかに越える大作である。当時出ていた英語の文法書をそうとうに調べ込んだ痕跡があるが、たんなる外国の研究の引き写しではなく、自分でも英語の本を読みながら参考になるさまざまな表現を集めたらしい。つまり、英語を読みながら、なるほど英語ではこういう言い廻しをするものなのか、と気がついた、作者の個人的発見もこの本の中には盛り込まれているのだ。おそらくそれがこの本をたんなる解説書ではなく、熱気に満ちたものにしているのだろう。いま、ちまたにはスマートで明快な英文法書、短時間で最大の成果をあげる英文解釈の本などがでまわっている。しかし昭和五年に出た本書は、ひたすら英語の本を読みまくり、問題を捜し出し、それを整理しようとする気魄にあふれている。言い方は悪いが、語学にのめり込んだ人間の「偏執性」を感じさせるのだ。
しかしこの本には問題も山積している。まず誤植が多い。英文にも誤植がかなりある。そして訳文も古かったり、ぎこちなかったりする。また例文がコンテクスト抜きで示されているので、意味の取りにくいものが多い。さらに、一千頁を越えるので、普通の人はちょっと読む気がしない。こうした問題をどうにかできないかと折に触れて考えてきたのだが、本書のポイントを整理し直し、厳選された例文を三つぐらいにしぼって提示してみたらどうだろうと考えた。実際に作業をしてみると、これが結構時間が掛かるのだが、その労力に見合うくらいの実のある文法書、いや、英文読解の参考書ができそうな気がしてきた。
そこで深沢の著作をそのまま引き写すのはいったんやめて、わたしが整理しなおしたヴァージョンをこれから掲載していこうと思う。膨大なものにはなると思うが、ポイントをしぼっているので、解説を見て既習の知識であればさっさと次に移る、という使い方もできるだろう。例文はコンテクストがある程度わかるものにした。わたしが見つけてきた例文もかなりある。試行錯誤を繰り返しながらやっていくつもりだ。