Yakuza 0 の面白さはこのシリーズの中でも群を抜いている。海外でも圧倒的な人気である。キャラクターのインパクトといい、徹底したメロドラマ(あるいはソープオペラ)的筋書きといい、アニメ的誇張といい、とにかく強烈な印象を残す。しかし海外の人にも面白がられるのは、台詞の翻訳(ローカリゼーション)が非常に巧みだからでもある。ばかばかしいコントや下卑た話題から、シリアスな犯罪ドラマにいたるまで、この作品は幅広い言語を用いているが、それを翻訳者たちは、やはり多彩な表現を駆使して英語に変えて行くのである。その手腕は並のものではない。
二箇所だけ紹介したいと思う。
兄弟の縁を切った主人公桐生と錦山が、その後神室町の街角でばたりと出会う。そして二人はもう一度兄弟の関係を取り戻すという、任侠劇のハイライトシーンが展開されるのだが、そこでの錦山の台詞はこうなっている。
おれは……おめえがいない東城会でのしあがっても意味はねえんだ。おめえがいくらいったところで、おれとの縁は切らしゃしねえ! 覚悟しろよ。おらぁ一生おめえにつきまとってやる。
この最後の部分は英語では
I'm sticking with you till death do us part.
となっている。これには感心した。till death do us part 「死が二人をわかつまで」はもちろん結婚式で使われる表現だが、二人の絆の深さ、ホモセクシュアルな関係を、一抹の滑稽感とともに伝える秀逸な翻訳となっている。こういう遊び心のあるローカリゼーションは読んでいてもほんとうに楽しい。
もう一例。ゲームのはじめのほうで桐生がバッカスという正体不明の外国人およびカモジというホームレスに出会う場面がある。このカモジの仕事をめぐって桐生とバッカスがこんなやりとりをする。
桐生「カモジの仕事? ホームレスがどんな仕事をしているんだ」
バッカス「ズバリ、“押しタオシテ見て屋”だネ!」
桐生「……いかがわしい仕事みたいだな」
カモジ「違えよ! 倒してみろ屋……だよぉ」
カモジは客に自由にパンチを繰り出させ、それを巧みによけるという商売をやっている。それが「倒してみろ屋」である。英語ではバッカスの台詞が
He's a... whatchacallit. A fisting artist!
となっていて、商売名を間違えられたカモジは憤慨して
That ain't it! It's PUNCHOUT artist.
と答えている。これはちょっと悪ふざけがすぎた翻訳のようだが、しかし……面白い。わたしは大笑いしてしまった。ちょっとだけ英語の解説をすると、whatchacallit は what you call it を一つづりにしたもので、「いわゆるあれだね」という感じの言葉。fisting は、ううむ、ちょっと説明を憚る。英語のポルノサイトで検索でもしてもらおうか。fist (手)と punch (パンチ)の類似性が言い間違いを生じさせたというわけだが、よく考えられた(Yakuza 0 のいかがわしさをよく表現した)訳になっていると思う。