これもベルグラビア誌に掲載された短編でタイトルは「幽霊の呼び出し」。前回紹介した「教会で語られた物語」よりもはるかに出来はいい。
語り手である医者のところにある男が訪ねてくる。今晩自分は死ぬが、その死に際を見届けてくれたら千ポンドを払う、というのだ。べつにどこも悪そうなところはないので、医者は神経の病だろうと見当をつけ、報酬の金に惹かれてその男の家へ行く。家に着くと男はさっそく寝る支度をするのだが、その間に医者はこっそり持って来た睡眠薬を飲み物に混ぜ、男に飲ませてやる。男はぐっすり眠りこみ、医者もついうとうととしてしまう。
ところが男が自分の死を予告した時間になったとき、医師はふと目を覚ます。家の中はしんと静まりかえっている。そのときだ。医者は死衣をまとい、無残に顔の崩れた幽霊が、ゆっくりと男の寝るベッドに近づいていくのを目撃したのである。そして幽霊が薬指の欠けたかぎ爪のような手を男の頭の上に伸ばすと、男は悲鳴をあげて絶命した。
医者は男の死を確認してから屋敷を出る。そして医者としての評判に傷がつくかもしれないからと、男の死に立ち会ったことを秘密にしていた。ところが男の妻が、医者への千ポンドの報酬を含む遺書に異議を申し立てたと聞いて、とうとう弁護士に相談することになる。そして奥さんと直接話をすることになった。そこでなにがあったのか。この場面は非常に短く叙述されているだけなのだが、わたしはその不気味さにかなりぎょっとした。
この短編はすべてを語り尽くしていないけれども、それがかえってこの作品に余韻を与えていると思う。なかなかの出来栄えだ。