本作の舞台は東ヨーロッパのどこかであり、時はロシア革命以前のいつかと思われる。The Dogs of War「戦争の犬」というというタイトルはフレデリック・フォーサイスも使っていたが、戦争というのは綱を解き放たれた犬どもの喧嘩のようだという意味である。
東ヨーロッパのある国(かりにA国と呼ぼう)に疫病が発生した。多くの人が死に、べつの国(B国と呼ぼう)がA国の軍事力の低下につけこんで侵略戦争をはじめる。A国の若き王と王妃はロシアに逃げ込み、皇帝の助力を取りつけようとする。その逃避行の途中で弱り切った王妃の身体を休めるために修道院に立ち寄るのだが、さっそくB国の王とその手勢が彼らを追いかけてくる。王妃はもう動けないので、A国の王のみがロシアへの旅を続けることになる。
さて、王妃が残った修道院にB国の王がやってくる。そしてたちどころに百姓の恰好をした女がA国の王妃であることを見破る。そして彼らは二人だけで話をすることになるのだ。
じつはB国の王はA国の王妃を妻にしたかったのだが、その望みはかなわなかったのだった。彼女の良人はロシアに行ってしまったし、もう帰って来ることはないだろう。それならわたしの妻にならないか、と彼は王妃にもちかける。なんと、王妃はそのプロポーズを受け、あまつさえ敵であるはずの男にキスをするのである。しかしそれこそが彼女の恐るべき計略だった……。
終わってから「あの台詞にはこういう意味があったのか」とうならされる、非常によくできた一幕もののドラマだ。それにしても作者のマージョリー・R・ワトソン(Marjorie R. Watson) はどういう人なのだろうか。ホフマンの童話を語り直していたりするが、詳しいことはよくわからない。