わたしが読む本は十九世紀後半から二十世紀前半の百年間に出たものが多いのだが、それでも最新の新語とか表現は気を配って覚えるようにしている。新聞も読むし、最近のわたしの趣味としてゲーム実況を見るので、話についていくには新しいスラングなども知らなければならない。You are down bad とか That's so snatched とか、コンテクストでなんとなくわかるけれども、字面からは意味がとりにくい表現がたくさんある。
最近の生活費高騰により出てきた新語の一つに warm bank がある。イギリスでは光熱費が2022年の四月と比較して97%も上昇した。おかげで七百万世帯が fuel poverty (燃料費の貧困)に陥いろうとしている。そこで地方議会、慈善団体、博物館、図書館、NHS などが、暖房費に苦慮する地元の人々のために、暖かく安全に時間を過ごせる場所を提供するというのが warm bank の基本的なアイデアとなる。場所によっては食料の提供もあるらしい。つまりそういう場所は food bank と warm bank を兼任することになるわけだ。
これはかなり大きな反響を呼んだ。ある女性は Warm Homes というキャンペーンを立ち上げ、暖房費が払えないご近所さんを居間に招待して暖かく過ごしてもらおうと呼び掛けている。
アバディーン、バーミンガム、ダンディー、ブリストルなどの市も地元の団体と協力して warm bank を開設する用意をしている。寒くなる十月から開かれるそうだ。コロナ感染とか気になる点はいくつかあるものの、イギリスのコミュニティー精神はやっぱりすごい。
日本では家族精神が強調されるが、コミュニティー精神はない。人間がコミュニティーの一員であるという意識はゼロに等しい。だからコミュニティーが個人を助けるということ(生活保護)はしようとしない。わたしの住んでいる市では、冬のあいだホームレスの人々が図書館で暖を取ろうとすると、警備員などが追い出しをはかっている。現政府とかその支援団体である宗教団体は、なにが問題が起きるとすぐ家族のせいにするが、じつはそれは家族ではなく、政府の政策の問題であったりする。そのくせ国家は戦争になると個人に命をささげるよう命令するのである。
しかし話を warm bank に戻そう。このアイデアは助け合いの精神を発揮して大いに結構なのだけれど、問題は根本から解決しなければならない。warm bank がいつまでも続くような状態であってはならないのである。そのためにはやはり省エネ技術、再生可能エネルギーの開発、化石燃料からの脱却に国家が力を入れなければならない。そしてもう一つ。イギリスは世界でもっとも裕福な国の一つである。光熱費に困るほど金がないわけではないのだ。では、なぜ warm bank が必要になるのか。これは Don't Pay 運動を展開しているルイス・フォードが指摘していることだが、要するに金が一つ所に停滞しているからである。