Thursday, December 29, 2022

ピーター・チェイニー「誰も見なかった男」

主人公はジョニー・バロン。シェンノート探偵社の探偵だ。彼は戦争で社長のシェンノートに命を助けられた。だから特別の気持ちをこめてこの会社で働いている。


たえず酒を飲み、煙草を吹かし、女にもてる。しかし観察力の鋭い、ハードボイルド派の探偵だ。

事件はシェンノートの死からはじまる。シェンノートは心臓が悪く医者からいつ死んでもおかしくないといわれていたのだが、ある日、事務所の自分の机につっぷして絶命しているのが見付かった。医者は心臓発作という診断を下したが、ジョニーは何者かが彼を脅し、それによって心臓発作が起きた、つまり他殺だと判断した。そしてシェンノートの妻の許可を得て、犯人の捜索に乗り出す。

どうやらシェンノート探偵社が扱っていたとある離婚事件がこの犯罪と関係があるようだった。それを探っていくと意外な人間関係と恐喝事件の存在が明らかになっていく。

作者のピーター・チェイニー(1896―1951)は映画化もされたレミー・コーションという探偵のシリーズがいちばんよく知られている。が、「ダーク・シリーズ」もなかなかいい。もっともこちらは一人のおなじ主人公がどの作品にも登場するというわけではなく、何名かの異なる人間が主人公となる。今回わたしが読んだのは後者のシリーズの一冊である。

1949年に書かれたこの作品にはおかしな魅力がある。存在しないものが、あたかも存在するかのように、ある効果を与える、というテーマが繰り返し顕れるのだ。まずジョニーは戦争中、腹部に銃弾を受け、手術で全摘するのだが、いまなおそれが残っているかのように奇妙な感覚・痛みを覚え、それを消すために酒を飲み続けなければならない。存在していないものが、彼の体になにがしかの効果を与える、という存在論的に非常に面白い現象が起きている。こういう現象はよく小説でお目にかかるけれど、本作ではこのような現象が何度も繰り返される。たとえばシェンノートの事件。シェンノートは医者によって心臓発作で死んだと診断された。しかしジョニーは、何者かがシェンノートに空砲を撃ち、そのショックで彼は死んだのだと考える。心臓発作で死んだと考えてもまったく問題はない情況なのだが、ジョニーはそこにある種のノイズを感じ取る。このノイズは科学的には存在しないといっていいのだろう。存在するという証拠はどこにもないのだから。しかしないはずの弾丸を、いまだに腹部に感じるジョニーは、事件に対しても存在していないなにかの存在を感じ取る。

さらに本書には不倫の証拠を偽造する商売が登場する。結婚相手にあきた男が、不倫の証拠を偽造してもらい、それを結婚相手の法律事務所に送りつける。それによって離婚の手続きをスムーズに、迅速に行わせるのである。妙な商売だが、それによって得をする人間もいるらしい。ここでわたしが注目したのはこういうことだ。不倫の事実はないのだが、この商売は不倫があったとおなじ効果を惹き起こさせる。原因はないけれど、結果だけが生じるという現象。「存在していないものの存在」というテーマの一貫性は顕著で、明らかに作者はなにかを考えようとしている。

本書にはほかにも考えるべき奇妙な特徴があるのだが、考えがまとまっていないからここには書かない。近いうちにまた読み返すことになるだろう。

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