1946年のスパイ小説。第二次世界大戦の真っ最中、イギリスとドイツは戦場だけではなく、人々が住む街の中でも暗闇に紛れてスパイ同士が戦いを展開していた。クウェイルはイギリスのスパイたちを統括して、イギリスに侵入したドイツのスパイを撲滅しようとしている。ある時は部下を無慚に殺され、ある時は敵の大物スパイを事故に見せかけて殺す。そしてすぐに敵の報復を受け、イギリスの諜報機関の重要な情報を盗み取られる。虚々実々のやりとりだ。
クウェイルの駆け引きの相手はドイツのスパイだけではない。彼が指揮する部下に対しても術策を弄する。敵を騙すにはまず味方から、というわけだ。とにかく見かけの裏にはさらに裏があるといったありさまで、読んでいてもなかなか面白い。
スパイ小説というと007とかパルプ小説のように華やかなアクションを展開するものもあるが、チェイニーのスパイたちは一般市民と変わりのない生活をしている。トラックの運転手、社交界を遊び歩いている色男、パブを渡り歩く飲んべえ等々。ところが彼らはクウェイルから指令を受けるや、危険な任務を遂行する、冷静かつ非情なプロフェッショナルに変身する。そして大きな仕事をしたあとは数週間の休暇を手に入れる。
しかし彼らは常にドイツのスパイたちによって見張られている。そして性格や日常生活を細部まで観察され、それが彼らの諜報活動のために利用されるのだ。ところがその敵の動きさえもクウェイルは事前に予知して、敵の活動を把握する道具にしていた……。
この作品はひどく軽快に読むことが出来た。現代のスパイ小説からすると、まだロマン主義のかけらが残っているところが甘い印象を与えるけれど、十分におもしろい。ただドイツと一緒に日本もけなした書き方をしているので、日本の出版社はあまり彼の本を出したがらないのかもしれない。