ケイポンはイギリスのSF作家で、映画やテレビの業界でも活躍した。彼の作品でいちばん有名なのは、地球からは太陽のちょうど反対側に存在する惑星アンチジオスを扱った三部作である。第一作は「太陽の反対側」(1950)、第二作は「惑星の残り半分」(1952)、そして第三作「地球へ」(1954)となっている。わたしは第一作も第二作も読んでいないが、たまたま Fadepage.com からいきなり第三作が電子化されたので読んでみた。ちなみにパブリックドメインにある作品を電子化するサイトにおいて、連作が途中から電子化されはじめるのはよくあることだ。手元に第一作がないから、仕方なく第二作や第三作から電子化の作業に着手するのである。これはもう仕方がない。
物語のほうは……。ポレンポート博士率いる宇宙探検隊がアンチジオスへ行き三年が経つ。果たして探検隊は無事目的地に着いたのか、それとも事故でもおきて宇宙の藻屑と化したのか、それすらもわからない。ところが、ある日、アマチュア宇宙研究家のコックス兄弟が、ポレンポートによってアンチジオスから発信された短波を捉えるのである。それによると彼らは無事であり、アンチジオスには優れた文明があり、彼らは宇宙船を建造し地球に帰る予定だというのだ。大ニュースだ。
しかしイギリスというのは宇宙時代になってもコロニアリズム、つまり植民地をつくり富を独占しようとする気質が消えていない。アンチジオスは友好的・平和的な文明を持つのに、新聞と資本家が結託してアンチジオスは野蛮で、ポレンポート博士たちは彼らの捕虜となっているなどと、でたらめの報道をやりはじめ、国民の敵愾心を煽り立てたのである。そして最終的にはアンチジオスに攻め込み、イギリスの属領としようとしていた。
宇宙船で地球に向かう途中、この動きを知ったポレンポート博士らは、このまま地球に着陸すれば攻撃されるかもしれない、あるいは一緒に地球へ行くアンチジオス人に危害が加えられるかもしれないと考え、一計を案じる。
この作品はアンチジオスから宇宙船で地球に向かうポレンポートたちの様子と、宇宙人が地球に来ると大騒ぎする地球の様子とが、交互に描かれている。正直いって前者のほうはさっぱり面白くない。最後まで読み通したのは、地球で起きる騒動に興味があったからだ。資本家と新聞社が宇宙人は敵対的であると喧伝して、国民のあいだに戦争の機運を煽り立てようとする。しかしそれが嘘であることを別の新聞がすっぱぬく。戦闘的な新聞社は大恥をかかされたわけだが、資本家のほうは平気だ。短い期間に株の操作で大儲けしたからである。が、新聞社もこすからさでは負けていない。この資本家が死んでしまったあと、新聞社は彼が偽の情報を流したためにわれわれは間違った報道をしてしまったと、自分たちの無罪を主張する。じつに節操ない連中だが、その戯画的な描き方の中にはひとつまみの真実みがこもっている。わたしとしては、アンチジオス側の話は省略し、最初から最後まで地球の騒動を詳しく描いて一編の小説に仕上げた方がよかったのではないかと思う。