私立探偵キャラハンが活躍するシリーズの第一作。1938年の作品だが52年には舞台劇としてウエスト・エンドで上演され、さらに54年には映画化もされている。
話の出だしはだいたいこんな感じだ。メロールトン老人は(発音が間違っているかも知れないが)奇矯な大金持ちとしてロンドンではメディアを騒がせた存在である。彼には四人のろくでなしの息子とシンシスという美しいまま娘がいる。老人はろくでなしの息子に遺産を与えず、すべてをシンシスに遺贈しようと遺言を書き換えようとするのだが、ろくでなしの息子たちはそれを食い止めるために老人を殺害し、その罪をシンシスになすりつけようとする。そこでシンシスがキャラハンに助けを求めてくる……
登場人物は多彩で、話はかなりこみ入っている。キャラハンはロンドン中にアンテナをはりめぐらせる情報屋を利用して息子たちの動静を探り、犯罪の臭いがぷんぷんする場末のバーで格闘したり、麻薬中毒の金持ちからゆすりまがいの方法で金をまきあげたりする。十九世紀の世紀末に「ロンドンの秘密」というミステリが書かれて大評判になったが、本作における上流階級の腐敗ぶりやスラム街の描写は、あれをアップデートさせたような感じだ。
正直に感想を言うと、わたしはこの作品にあまり感心しなかった。「ロンドンの秘密」に負けないくらい、書き方が雑なのである。括弧を使って本文の補足をするのは多用されると見苦しい。また、だいたいは主人公のキャラハンの視点から書かれているのだが、ところどころそれを離れてしまう。意味のない視点の変更は読んでいて非常に気にかかる。ピーター・チェイニーが1940年代に書き始めた「ダーク・シリーズ」は興味深い作品が多いのだが、キャラハンやコーションものは首をひねる出来のものが多い感じがする。