Saturday, April 29, 2023

ラッセル・ファーン「過去のもの」


原題は A Thing Of The Past。内容は……。

ロンドンの郊外で爆弾を用いて土地の造成を行っていたところ、とてつもなく深い亀裂が地中に見つかった。技師のクリフはロープをつけて穴の中に降りてみたが、途中に人間が立てる台のような部分はあるものの、その端は切り立つような絶壁になっていて、どれくらいの深さがあるのかもわからない。

この穴からまず奇怪なガスが噴出してくる。それを吸い込んだ人々は、怒りっぽく、荒々しい態度を取るようになる。さらに文明社会の洗練された振る舞いを失い、洞窟に住んでいた原始人のようにがさつになっていくのだ。

次にこの穴から恐竜が飛び出してくる。最初は空が飛べる恐竜どもで、家畜に被害を出したのち、軍によってしとめられる。ところがそのうちほかの恐竜も穴から出てくるようになり、ロンドンはパニック状態に陥る。

技師のクリフは数名の科学者とともに地底探査機に乗りこみ、何が起きているのかを探り出そうとする。

ラッセル・ファーンはイギリスのパルプ作家でとてつもない量の作品を残している。日本ではほとんど知られていないけれど、パルプ小説のファンは(どの国にもパルプ小説の熱烈なファンが少数だけどいる)今でも愛読している。わたしもときどきこの手の本が読みたくなり、ファーンの本はそのときのためにかなり揃えてある。

本書は前半は「ジェラシック・パーク」のような恐竜騒動を描き、後半はベルヌみたいな地底探検、ないし地下世界探検になっている。前半も面白いが、後半は一段と文章が熱気を帯び、今まで読んだファーンのSFのなかで、いちばんよかったと思う。続編のありそうな終わり方なので調べて近いうちに読んでやろう。


エドワード・アタイヤ「残酷な火」

  エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...