Saturday, September 23, 2023

モード・ケアンズ「奇妙な旅」

 


これは女性の饒舌体で書かれた、ボディスウォップ小説の傑作だろう。本当に面白かった。

ポリー・ウィルキンソンは愛すべきトムと結婚し、子育てに奮闘する典型的な中流階級の奥さんである。あるとき彼女は眩暈がしたかと思うと、突然豪華な衣裳をまとう貴婦人となって見知らぬ人々に囲まれ話しかけられている自分に気づく。これが事件の始まりだ。簡単に言えば、ポリーは豪華な邸宅に住むレディ・エリザベスと肉体を交換したのである。そしてある程度時間が経つと、また元の肉体に戻っていく。これが幾度も繰り返されながら物語は進む。

なにしろ見知らぬ人々と、旧知の間柄のように接しなければならないのだから、いろいろと頓珍漢な事態が生じる。またポリーとエリザベスは階級だけでなく性格も趣味も特技も異なるため、周囲の人々を驚かすことしきりである。これが圧倒的に愉快で、気がついたら一気に百頁くらいは読んでしまっている。ポリーはエリザベスの邸宅で騒動を巻き起こすが、エリザベスのほうもポリーの交友関係に波乱を巻き起こし、両者ともその後始末が大変だ。そのあたりもよく書けていて、笑いが止まらない。

わたしは読みながらデラフィールドの「田舎夫人の日記」を思い出した。あれも女性の饒舌体がそこはかとなくおかしさを醸し出している作品だった。本当はわたしはあれを訳したくてたまらないのだが、あの文体を日本語に置き換える力はないので、あきらめているのだ。「奇妙な旅」も同様で、わたしのなかでは評価は非常に高いが、この文章はうまく訳せないと思う。たおやかであると同時に、ある種の強さを持ち、生活感にあふれているかと思うと、ふと鋭い洞察も見せる、こういう文章はとても歯が立たない。わたしはどちらかというと論理的な、一本調子の文章を書くタイプなのである。

またこの作品はボディスウォップ小説の元祖F・アンティーの「入れ替わり」も思い出させた。アンティーの小説では父と子が入れ替わるが、正直言って「奇妙な旅」のほうが百倍も面白い。ぜひ有能な翻訳者によって訳出されてほしいと思う。

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