Tuesday, September 26, 2023

ジム・タリー「ボクサー」


Jim Tully は浮浪者文学の代表的作家であるだけでなく、ハードボイルド的な文体の始祖でもある。作家としてはアマチュアだが、みずから浮浪者生活を送っただけに、その内容が迫真的で、人生の真実をぎょっとするほど読者の目につきつけるところがある。

本作はシェインという若い男が放浪の旅をしているうちに賞金稼ぎのボクサーになり、紆余曲折を経た末にヘビーウエイトのチャンピオン戰にこぎつけ、壮絶な試合を展開するという物語である。シェインは放浪者だが、ずる賢いところがすこしもなく、そんじょそこらの人間より公正で真面目で素朴な心情の持ち主である。大男だがごつごつと筋肉が発達した身体ではなく、あくまでしなやかで柔らかい筋肉の持ち主で、反射神経は群を抜いている。ボクシングをやるには最高の肉体であるらしい。

彼はボクサーをはじめた瞬間からその才能を発揮してすぐに強豪として名を馳せるようになる。しかしその性情のあまりの純粋さゆえに、悩みにもとりつかれ、戦うものに必要な呵責のなさを身につけることが出来ない。彼は可憐な恋愛に破れた後、ようやくボクサーとして目覚め、チャンピオンロードを歩みはじめる。最後のチャンピオン戰は壮絶で、定型的な表現が散見されはするけれども、やっぱり映画の「ロッキー」みたいに興奮させられる。人間の限界を超えた戦いが繰り広げられるからではない。わたしも陳腐な言い回しを用いるしかないけれど、いずれのボクサーも人生を背負って戦うからである。

しかし欠点も多い作品ではある。表現が仰々しくて鼻白む部分があること、シェインという人物像がいささか単純すぎ、陰影に欠けること、ボクシングのモンキービジネスぶりを読者に知らしめようとしたのか、小説の後半に入ると主人公を離れた描写が多くなり、いささかつまらなくなること、等々。前半の浮浪者生活の描写が精彩を放っているため、後半の展開はちょっと残念だが、最後のチャンピオン戰がそれを補ってあまりあるという感じだろうか。

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