ノートンの「死して横たわりたる」があまりによかったので、さっそく別の作品を読んでみた。「予告された死」(Dead on Prediction)は「死して」に比べると劣るが、興味深い共通点もあった。ノートンの人間を見る目は独特な先鋭さを持っている。
話はこんな具合に進む。ケイト・ロスは警官である夫を失ったばかりだ。しかし活動的な彼女はただ遺族年金を貰って生きていくことを選択しない。もと雑誌記者であった彼女は、占いに関する連載記事を書いて生活の糧を得ようとする。そのときにふと彼女は思い出すのだ。そういえばリリーという十六歳の少女が公園で殺され、いまだに未解決のままの事件があった。たしか新聞記事によると、彼女は占い師を訪ね、夜中に公園に行くのは危ないと警告されていたはずだ。というわけで、ケイトは地元の占い師を取材しながらリリーの運命をぴたりと予言した占い師は誰だろうと探しはじめる。
ところが連載記事用の取材を終え、ことのついでにとリリーのことを尋ねると、占い師たちはみなおかしな反応を示すのだ。そしてとうとうケイトのもとに「これ以上リリーの事件に首をつっこむな」という脅迫状が送られ、さらにケイトとおなじマフラーをしていた雑誌編集者が襲われ、入院という事態に。もしかしたら犯人は雑誌編集者を自分と勘違いして襲ったのではないか、真のターゲットは自分だったのではないか。こうしてケイトと警察(亡き夫の部下たち)による捜査がはじまる。
ノートンという作家は無意識の動機にきっと関心があるに違いない。しかもこの作品が特異なのは、犯罪者の動機ではなく(「死して」の場合は犯罪者の無意識の動機を探っていくが)、ケイトがリリー殺害事件に興味を持つ動機がさぐられていく点だ。ケイトはリリー事件には最初はおざなりな興味しかなかった。ところが時間が経つにつれ、雑誌記事を書くことより、リリー事件に興味が移っている自分に気づいて驚くことになる。そして最後には、この事件には生前夫が関与しており、解決できぬまま亡くなったことがわかる。夫が警察の記録に書き残した謎のようなメモを手掛かりに彼女は事件の真相に近づいて行く。彼女は自分でも知らなかったが、本当は夫のために占いのルポ記事を書こうと決意したのだ。彼がやり残した仕事を完成させるために。最初はルポ記事の「ついで」という扱いだったリリー事件の捜査が、じつは彼女が本当に意図していたことなのである。それがわかる最終章はちょっと感動的ですらある。ある意図の副産物こそ、まさに主体が当初から意図していたものだという認識は,精神分析ではもはや常識だが、ミステリのジャンルでそれを意識化して書いた作品は……どうだろう、わたしが見落としているだけかも知れないが、あまりないような気がする。