Wednesday, June 26, 2024

ヴィータ・サックヴィルウエスト「ウエストイーズの悪魔」

 


Furrowed Middlebrow は、二十世紀前半に活躍した作家たち、それもあまり知られていない女流作家たちに注目したウエッブサイトだ。サイトの管理人スコットさんはサンフランシスコに住み、出版業にも関係しているらしい。アメリカの女流作家のリストや、第二次世界大戦を扱った作品のリスト、ミステリを書いた女流作家のリストなど、貴重な資料を提供している。そのリストの一つを見ながらびっくりしたのは、ヴィータ・サックヴィルウエストがミステリとSFを、それぞれ一冊ずつ書いているという事実を知ったことだ。サックヴィルウエストといえばヴァージニア・ウルフとの親密な関係でよく知られた作家である。あの彼女がミステリを書いていた! 椅子から飛び上がりそうなくらいびっくりした。なにしろ彼女は普通の小説と紀行文でならした人なのだから。このたびようやく本を手に入れたので(スコットさんが言うように、なかなか入手が難しい本だ)レビューしておく。

本書は有望な若い作家で、第二次世界大戦中は空軍に属し爆撃機に乗っていたロジャーが表題にあるウエストイーズという鄙びた村へ行き、水車小屋を購入するところからはじまる。ここでのんびりと新しい作品の想を練ろうというのだ。近くにいるのは牧師、その妻と娘、地主、貨幣学の教授、村に一時的に滞在している画家などである。物語の最初の四分の一くらいは、ロジャーとこうした人々との付き合いが描かれている。ロジャーは出会った瞬間から画家を毛嫌いし、その作品になにか不吉なものを感じている。そして牧師の娘とは仲が好くなり、二人の間には恋愛感情が芽生えていく。

そんなときに突然牧師が殺害される。吹雪の夜、大量のクロロフォルムをかがされ、彼は死んだ。スコットランドヤードから刑事が派遣され、捜査が開始される。そしてあろうことか、殺害の当日、いささか不可解な行動を取った牧師の娘に疑惑の目が向けられるようになるのだ。

そしてさらに貨幣学の教授が失踪する。彼は失踪前に、自分の身になにかがあったならある手紙がロジャーに発送されるよう手続きを取っていたのだが、その手紙も消えてなくなった。教授はどこへ消えたのか。殺されたのか。手紙はなぜなくなったのか。

 これ以上は筋の紹介は出来ない。わたしはある手掛かりを得て、すぐにホームズものの短編を思い出し、あのトリックだなと思い当たった。たぶん大勢のミステリファンも犯人をあてることが出来るだろう。しかし本文の最後に置かれた「後書き」を読んで、こんなところでどんでん返しをくらうのか、と思わずにこにこ顔になるにちがいない。物珍しさで手にした本だが、けっこう楽しめた。

英語読解のヒント(144)

144. half...half... 基本表現と解説 The tone was half jocose, half sullen. 「その語気はふざけているようでもあり、怒ったようでもあった」 「半分は(幾分かは)……半分は(幾分かは)……」という表現。 例文1...