Friday, July 26, 2024

ジョン・ラッセル・ファーン「空の棺」

 


ジョン・ラッセル・ファーンは一九〇八年に産まれ、一九六〇年に若くして亡くなったイギリスのパルプ作家だ。ミステリ、SF,ホラー、ウエスタンとじつにさまざまな分野の本を大量に書きまくった男である。わたしもかなり彼の本を読んだが、質的にはさほど高くない。しかし日本で言うなら西村京太郎のような気楽に読めるよさがあって、ヘビー級の文学を読んだあとなど、気分転換に彼の本をよく手にする。

「空の棺」は面白い趣向の作品で、ホラーかと思ったら、途中からミステリに変質する。ファーンはミステリとSFを合成したような作品をたくさん描いているから、こういう作品があってもまったく不思議ではないのだが、ジャンルの切り替えの鮮やかさという点になると……まあまあかな、という感じだ。類似の先行作としては R.C. アシュビーの「彼は夕刻にやってきた」とかフォレスト・リードの「春の歌」などがあるが、これら二作の切り替えの強烈さと比べるとファーンはさすがに一段も二段も落ちる。しかしそれでも充分楽しく読めるし、ファーンの作品としてはわりと出気のいい部類に入ると思う。

ネタバレになるので話の内容は最初のところをちょっとしか紹介できないのだが……

イギリスのとある村にピーターという若者とエルジーという美しい未亡人がいて、彼らは結婚しようとしていた。エルジーはジョージという男と結婚したのだが、これが粗暴な男でエルジーは結婚を後悔していた。ところが夫がたまたま亡くなり、彼女は夫の死後一月も経たずしてピーターと再婚しようとしたのである。なぜそんなに急いだのか。彼女は村に来たサーカス一座の興行に赴き、そこで占いをしてもらった。その占い師は当たるということで名を知られていたのだが、彼はエルジーが八カ月後に死ぬと予言したのである。それなら最後に幸せを味わっておきたいと、エルジーは考えたのだ。彼女とピーターは村の人に白眼視されながらも、新婚旅行をし、村に帰ってきた。そしてあるとき、エルジーは寝ているところを何者かに襲われ、意識を失う。彼女の頸筋にはなにかを刺したような二つの痕がついていた。いろいろな情況を考え合わせると、どうやら彼女の前夫ジョージが、彼女に恨みを持ち、ヴァンパイアとなって彼女を襲ったようなのだ……

読みながら「おお、そう来ますか」と思わずつぶやいてしまったが、パルプ小説ファンはこういうとんでもない展開を楽しんで読むすべを知っている。最初に述べたように、この先も「おお、そう来ますか」とつぶやくところが二箇所ほどあって、読後感はけっして悪くない。

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