Die ganze Gesellschaft1 begab sich auf einen freien Platz.2 Der Mönch hob3 weinend seine Hände hoch und betete laut zum Himmel empor4: „Gott des Himmels, sieh5 auf uns herab! Entscheide du, da wir Menschen nicht entscheiden können! Sage uns, wem6 von uns das Mädchen gehört. Amen." Das ganze Volt7 rief Amen und wartete still8 auf9 die Antwort Gottes. Das Mädchen, das müde war, hatte10 sich an einen11 Baum gelehnt.12 In diesem Augenblick tat13 sich der Stamm weit14 auf, nahm sie ganz in sich15 hinein und schloß sich wieder zu.16 So, während das ganze Volk sprachlos17 da stand, wurde Holz18 wieder zu Holz. Wie alles auf Erden19 wieder zu seinem Ursprung20 zurückkehrt.
訳。一行は die ganze Gesellschaft 或る野天の広場へ auf einen freien Platz 出掛けた begab sich. 僧は Der Mönch 泣きながら weinend その手を seine Hände 高く hoch 挙げ hob そして und 大きな声で laut 天に向って zum Himmel empor 祈った betete:「天なる神よ „Gott des Himmels, 我等が上を見下し給え sieh auf uns herab! 我々人間共は決裁し能わざるにより da wir Menschen nicht entscheiden können 汝〔これを〕決裁せよ Entscheide du! 我々の中の誰に娘が属するかを wem von uns das Mädchen gehört 我々に曰えかし Sage uns! rief Amen そして und 静かに still 神の答を auf die Antwort Gottes 待った wartete. 草疲れていた娘は Das Mädchen, das müde war, 一本の樹に an einen Baum 凭れていた hatte sich gelehnt. 此の瞬間に in diesem Augenblick 幹が der Stamm ぱっと weit 開いて tat sich auf 彼女を sie すっかり ganz 自分の中へ in sich 取り入れて nahm hinein そしてund また元通り wieder 閉じてしまった schloß sich zu. 斯くの如くにして So 全衆が das ganze Volk 唖然として sprachlos 其の場に da 佇立している stand 間に während 木材は Holz またもや wieder 木材と化してしまった wurde Holz. 凡そ地上に於ける凡ての物が alles auf Erden 復び wieder その根源に zu seinem Ursprung 帰る zurückkehrt が如くに wie.
註。――1. Gesellschaft (英 company)は一行、一座、連中、一同の意。ganz (英 whole)が附いても結局同じ事である。――2. frei は前にも出た如く、自由な、即ち青天の下の、の意。Platz はたとえば日比谷のような、または上野のような、群衆が集合し得る広場を云う。日本の都会には比較的少ないが西洋の町には必ず街路の会するところに円形の Platz がある。Marktplatz というのもそれである。殊に伊太利の都会の piazza (同意)は名高い。――普通 Platz を「場所」の意に用いるが、(即ち Ort, Stelle)それよりも狭義に用いられるのが如上の意味である。――3. heben, hob, gehoben 揚げる。――4. empor= は「ずっと上の方へ」「高く」という意の前綴である。此処では emporbeten という分離動詞として考えても宜しいが、それよりも正しいのは zum Himmel empor (天に向って)と云う句があると覚えることである。――5. sehen に対する命令形。――6. wer (誰)の三格。wer は wer (誰が) wessen (誰の) wem (誰に) wen (誰を)と格変化する。第二巻 166.――7. Volk, n. (英 people)は群衆(Masse)の意に用いる。民族と云う時とは少し意味が違う。――8. still=stumm.――9. warten (待つ)の用法は auf etwas (四格) warten. 即ち warten は auf を「支配」すると云う。――10. sich lehnen は凭り掛かる、の意であるが、此の時に初めて凭り掛かったのではなく、此の時より暫く前に凭り掛かって、此の瞬間には既にもたれて居たのであるから、過去完了を用いたのである。(第二巻 110).――11. 方向と動きとを表わす an 故四格支配。――12. sich lehnen (凭り掛かる)=sich stützen 身を支える。――13. auftun は「あける」――sich auftun は「あく」。――14. weit を「ぱっと」と訳したのは意訳で、本当は「広く」の意。breit と同意。――15. in sich の sich は四格である。「自身の中へ」と方向を指すからである。――16. sich zuschließen (閉じる)=sich zutun, sich zumachen.――17. sprachlos (言葉なく)を「唖然として」と訳して置いた。=los なる語尾は英語の -less に相当する。――18. Holz に冠詞が附いていないのには訳がある。Das Holz と云うと、「木材なるもの」「木というもの」という、一般的な総称となってしまう。たとえば「木材は軽いとしたものだ」(Das Holz ist leicht)と云った様な時には das Holz で宜しいが、木製の娘の場合には、此の娘が直ちに以て木材そのものであるとは云えない。普通の名詞ならば不定冠詞を附けて ein Holz とでも言いたい所である。ところが、木材とか砂糖とか金属とか雪とか云ったようなものは、「量」は持っていても「数」は持っていない。量ることは出来ても数える事は出来ない。勿論 ein Stück Holz (一塊の材木)と考えて、その塊を算えることは出来るが、物質として見たる木材そのものには数は無いのである。こう云う種類の名詞を物質名詞と云って、不定冠詞は附けられない事になって居る。附けるとすれば、一般的に云う際には定冠詞を、或る分量を指す際には無冠詞と云う事になっている。勿論例外はある。たとえば、das ist ein hartes Holz! (こいつは随分固い木材だな)等、形容する時には、「一種の」と云う意味で不定冠詞を附ける。また ein Tuch (風呂敷)なぞと、元来物質名たる Tuch (布)という字を転用する時には不定冠詞も用いられる。――此の物質名詞というものを冠詞の上で区別するのは、ドイツ語のみならず、西洋語全般に亙現象であるから解くに注意する必要がある。――19. auf Erden (此の世では)は熟語。Erde, f. (地、土地、地球)は単数では、女性名詞だから語尾を採らない筈であるが、熟語だから例外である。冠詞が附いていないのも其の為めである。――auf der Erde と云えば「地べたの上に」と云う事になってしまう。――20. Ursprung (英 origin)(根源)は ur= と云う「根源」を意味する前綴と、「発する」と云う springen から成り立っている。(英語の spring 「泉」参照)――Ur= の附いた語の例には Urmensch 原始人 Urwelt 原始世界 Urwald 原始林 Urvater 祖先、宗祖、 uralt 太古の、等がある。