ダットンはマイナー作家のなかでも、さらにマイナーな印象がある。その印象はこの作品を読んでも変わらなかった。
物語の舞台は五大湖の一つの湖畔の町だ。湖のかなたにはカナダが見えるらしい。この町の警察署長を勤めるローガンのもとに匿名の手紙が連続して届く。この町は邪悪な影に包まれている、名士の誰それはしかじかの悪徳に耽るクソ野郎だ、べつのなんとかは……という具合の誹謗中傷の手紙が何通も来たのだ。そんなものは無視すればいいのだが、ローガンはなんとなく気にかかり、友人で犯罪学の教授であるハーレー・マナーズに相談をする。匿名氏が言う「邪悪」とはいったいどんな意味なのか、と教授に尋ねるのである。
ひとしきり話をしたあと、警察署長のローガンは帰るのだが、すぐさまマナーズの家に戻ってきて電話を借りる。道の途中に車が停まっていて、不審に思って中をのぞくと、そこに若い女の死体が転がっていたのだ。医者の診断では死因は心臓発作。心臓発作なら事件にはならないが、なんとその翌日に教会内で牧師がやはり心臓発作で死んでしまう。匿名の手紙のせいで神経質になっていた警察署長は、心臓発作が重なったことに気味悪さを感じ、いずれの死体も検死に附すことにする。するとどうだろう、彼らはどちらも同じ毒薬で毒殺されたことが判明したのだ。
若い女と牧師の間にはどんな関係があるのか、なぜ彼らは毒殺されたのか、どのような手口が用いられたのか、ローガン署長とマナーズ教授の捜査がはじまる。
この作品を読んでいていちばん戸惑ったのは、いったい誰が捜査の主体なのかよくわからなかったところだ。最初はマナーズ教授がその犯罪学の知識を生かして事件を解決するのかと思っていたら、途中から彼の友人で秘密捜査官をしている男が登場し、彼が事件の大きな構図をあきらかにする。で、この秘密捜査官が謎を解き明かすのかと思ったら、今度は彼は背景に引っ込み、教授が事件を解決に導くのだ。なぜこんなふらふらした書き方をしたのだろうか。
また犯行の手口にもいろいろ疑問が残る。具体的に話をするのは避けるが、犯行は計画的と言うより、突発的なものなのに、犯人がちょうど犯行に必要な道具を持っていたなど、あまりにもご都合主義ではないだろうか。
また牧師の死は密室殺人をおおいに匂わせる書き方をしているのだが、その種明かしは……。竜頭蛇尾の典型としかいいようのない結末で、おそらく作者は読者の興味を惹くことだけを考え、トリックなんかなにも用意せず書いていたのだろう。ほかにも物語の展開が変だと思わされた点は多々ある。
構成もふらついているし、物語の細部もきちんと作り込まれていない。マイナーのなかでもマイナーと言われるのはむべなるかなという、粗悪な作品だと思う。