はじめて読む作家だと思っていたが、読了後、末尾に附された短い著者紹介を見てびっくりした。
ファーガソン・フィンドレー(1910ー1963)はペンシルベニア生まれのアメリカ人作家で、五十年代にマイナーな犯罪小説を幾つか書いている。もっとも成功したのは「波止場」で、1951年に「ギャング」というタイトルで映画化された。
そうか、「波止場」を書いた人か。それなら本書の出気の良さも理解できる。あんまり昔に読んだ本なので、作者の名前をすっかり忘れていた。
物語はこんなふうに始まる。海軍を退役した二十九歳のマクローリーは、霧の深いある夜、通りで三人組の男とすれ違う。どうやら三人は呑み仲間らしく、酔いつぶれた一人を、ほかの二人が左右から支えて歩いていた。マクローリーは、支えている男の一人をすれ違いざまにチラリと見て、「ジャックソン!」と声をかける。海軍で知り合った男とそっくりだったのだ。しかし呼びかけられた男は「人違いだぜ」と言って過ぎ去ってしまう。マクローリーは「失礼」と言ってその場を去る。
その直後に三人組の真ん中にいた男が死体となって路上で発見される。警察の捜査に協力したマクローリーは、三人組の一人が彼の友人ジャックソンに「似ていた」と証言したのだが、どういうわけか、翌日の新聞には、友人ジャックソンの写真が載り、容疑者扱いされている。マクローリーがおやおやと思っているところへ、ジャックソン本人がやってくる。殺人者扱いされるとは、どういうことだと憤慨しながら。マクローリーは警察にこの誤解を報告したあと、ジャックソンをなぐさめるために街へ呑みに連れて行く。そしてさんざん飲み明かした次の日、マクローリーはジャックソンが殺害されたことを知るのだ。
ジャックソンはなぜ殺されたのか。そもそも三人組の真ん中にいた男は何者で、なぜ命を奪われたのか。マクローリーはテッパー警部補に助けられながら、政治的陰謀の闇をあばいていく。
会話は生きがよく、地の文はある種の端正さをたたえた良質の文章だ。最初に書いたように「波止場」の作者とは知らなかったから、ずいぶん感心しながら読み進んだ。物語は、短いせいもあるが、たるみなく進展する。恋愛あり、アクションあり、典型的な米国式エンターテイメントだ。「波止場」のハードボイルド的あじわいに較べると、やや落ちるが、それでも平均点以上の娯楽小説になっている。