Thursday, December 26, 2024

バークレイ・グレイ「殺人者コンケスト」

 


バークレイ・グレイを読むのは初めてだが、一読してさっそくファンになった。じつに爽快なパルプ小説だ。とにかく文章のイキがいい。釣り上げた魚がピチピチと尾びれで地面を打つような感じだ。文章だけじゃなく、主人公もイキがいい。その名はなんとノーマン・コンケスト。「ノルマン征服」である。彼は一種の義賊――ロビン・フッドの現代版――であって、悪をこらしめ、弱きを助ける。もちろんこの善悪の観念は(法や法的手続きにのっとらない手段を用いたものであるから)よくよく考えるとさまざまに問題をはらんでいるのだが、それは一応脇に置いておこう。警察も彼の振る舞いを大目に見ているようだ。なぜならノーマンが標的にするのは、あくどいことをやっていながら、法律では罰せられない連中であると知っているからである。それどころか彼の美しい妻はスコットランドヤードの警視の知り合いなのだ。ノーマンと妻のジョイはノーマンスクエアにあるペントハウスで贅沢な生活を送っている。まるでアメコミのような設定だ。おっと、言うのを忘れていた。作者は本名をエドウィ・サールズ・ブルックス(1889ー1965)というイギリス人である。

さて肝心の話の内容だが……。

ノーマンはある晩、鉄道線路の上に身を投げだし、自殺しようとしている貴族サー・キャリントンを危機一髪で助ける。自殺しようとした理由を尋ねると、キャリントンはチョートという金貸しにだまされて、邸宅をまきあげられることになったらしい。ノーマンは以前からチョートの所業をいまいましく思っていたので、これはよい機会だと、彼をこらしめようとする。彼はチョートの事務所に忍び込み、キャリントンに関する書類を奪い取り、そののちチョートにキャリントンの借金をチャラにする誓約書を書かせよう、と考えるのだ。彼はキャリントンに安心しろ、夜が明けるまでに問題はすべて解決していると請け合う。

ところがノーマンの目論見通りにことは運ばなかった。事務所に侵入し、金庫からキャリントン関係の書類を盗んだまではいいが、なぜかそこにチョートがあらわれ、すったもんだの末にノーマンの銃が暴発、チョートの頭を撃ち抜いてしまう。

その後、警察は現場に残された指紋からノーマンを犯人と特定し逮捕する。ノーマンの妻ジョイと、ノーマンに味方するウィリアムズ警視は、チョートの死が事故であることを証明しようとするのだが……。

この物語のよさはとにかく登場人物の性格がじつに際立っている点にある。なにものをも怖れず、いつも悠々と構えているノーマン、小柄ながら胆力があり、警官とも五分で渡り合える妻のジョイ、ノーマンをよく知り、彼に同情的な警視のウィリアムズ、頭が固くてひたすらノーマンを犯人扱いするクロフォード警部など、それぞれ持ち味が異なり、その多様性が面白いドラマの基礎になっている。やはりキャラが立ってこそ、ドラマは面白い。

もう一つのよさはスピード感だろう。たった一晩のうちに次から次へと事件が起き、冒険が展開される。かといって決して叙述がはしょったものになったりはしない。このあたりのバランスが見事で、作者の並々ならぬ手腕に感服した。

本書は前半で金貸しチョートの話は終わり、後半は彼の共同経営者の話に変わる。つまり二つの異なるエピソードが一編の小説として提示されている。ほかのノーマンものを読まないとわからないが、全部こんなふうに二話が一冊に集録されているのだろうか。後半の物語も前半のほどではないが、よくできているほうで、最後まで楽しく読める。こんなパルプ作家がイギリスにいたのかと、驚いた。ちょっとした「めっけもの」である。ウィキペディアを見ると、ノーマンものを51冊、アイアンサイドという人物(スコットランドヤードの刑事かなにかか?)を主人公に作品を43冊も書いている。さっそく探し出して読もうと思う。

関口存男「新ドイツ語大講座 下」(4)

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