Sunday, December 29, 2024

アーシュラ・パロット「エクス・ワイフ」


アーシュラ・パロット(1899-1957)は小説家でありシナリオ作家でもあった。彼女の処女作「エクス・ワイフ」(1929)は大ベストセラーになり、MGMによって映画化もされたが、今ではよっぽどの読書家でないかぎり知る人はないだろう。しかし読んだ人はその面白さに圧倒される。

「エクス・ワイフ」とは「元妻」という意味。語り手はパトリシアという若く美しい女性だ。彼女は二十一歳で結婚するが、性的な自由を求めた実験的生活が破綻し、ピーターという夫と別れる。(とはいえ、離婚はしない)物語はここからはじまる。そして冒頭から生々しい女の語りが開始されるのだ。この語りは本音をぶちまけたじつに迫力のあるもので、一行読んだだけで、もう止まらなくなる。

二十年代といえば堅苦しいヴィクトリア朝的道徳観から抜け出し、女性がいろいろな意味で自由奔放を追求した時代だが(そういう女性はフラッパーなどとも呼ばれた)、パトリシアはその自由奔放の代償として孤独感や虚無感を味わうことになる。

パトリシアが夫の友人と関係を持ったり、三角関係に陥ったり、堕胎する場面など、週刊誌記事のようなあくどい描写になっている。しかしそれはパトリシアの本音をなんの脚色もなしに表現した結果であって、この正直さがジャズエイジの人々に受けたり、忌避されたのだろう。

愛する夫に逃げられてしまったその空白を埋めるためにパトリシアは男性遍歴を重ねる。ジムに通いながら、華やかなニューヨークでコピーライターとしてバリバリ働くも、むなしさ、哀しさを抱えた彼女の姿は、1980年代、90年代のキャリアウーマンの姿を彷彿とさせる。本書は1989年に一度再刊されているが、絶妙のタイミングだったと思う。しかし女の本音がつづられたこの本は、今の人にも共感を持って迎えられるのではないか。本書の最後はいささかつくったような感じがあるけれど、それでも女の複雑な心情をあらわしていて、通俗的だが、読み応えのある、いい作品だと思う。McNally という出版社から昨年ペーパーバックがでたばかりだから入手は容易だろう。

エドワード・アタイヤ「残酷な火」

  エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...