これはわたしが読んだ戦争文学の中でも白眉と言える傑作である。
カロッサは言わずとしれたドイツの詩人だが、軍医として第一次世界大戦のときにルーマニア戦線に赴いた。
その激しい戦いの日々を、カロッサはほとんど瞑想的、あるいは哲学的といってもいい冷静さで日記に記していく。もちろん戦闘や傷病兵のリアリスティックな描写もあるが、同時に彼が見た夢や、戦死した友人の残した謎のような詩が幾度も紹介され、ある種の象徴的な意味が生々しい現実に付与されていく。
それだけではない。あるときふとわれわれは戦争という現実が夢のような肌触りを持つことに気づいて愕然とする。カロッサが前線を訪れたとき、森の中一面に死体が転がっているのを見る場面などは、そのもっともよい例である。なるほど現実はファンタジーのように構成されているのだ。
これは恐ろしく深い作品で、わたしはすぐにまたこの本を読み返すだろう。金子孝吉の訳は名文ではないけれども、静かな知性を感じさせる達意の文章で好感をもった。今度読むときは原文を手に入れよう。
関口存男「新ドイツ語大講座 下」(4)
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