今年のノーベル文学賞にペーター・ハントケとオルガ・トカルチュクが選ばれた。ハントケはノーベル賞について、文学に「誤った聖典化」をもたらすとして廃止を訴えていたが、果たして今回の受賞をどうするつもりなのだろうか。
それはともかく、ハントケを重要な作家と認めたことはノーベル賞委員が見識を見せたと思っている。彼はミロシェビッチを擁護したため、左翼からは随分嫌われている。わたしはアメリカの大学にいたころハントケの小説をかなり読み、語学的にわからないところをドイツ語の教師に質問したりしていたが、そのとき随分彼の政治的態度に疑義を呈する発言が相手から洩れた。わたしは作品がすべてという立場なので、左翼作家も右翼作家も関係なく読む。そして小説として出来が良ければほめる。三島由紀夫の小説を評価しないのは、彼が政治的に保守だからでなく、小説が下手だからである。
ハントケは小説がうまいし、わたしは彼の文章が好きだ。「ペナルティキックを受けるゴールキーパーの不安」は長く余韻を残す、見事な作品だし、「ベルリン・天使の詩」の脚本もすばらしい。国際的なレベルの文学賞を取ってもすこしもおかしくないいい作家だと思っている。しかし断っておくが、彼の作品を評価することと、彼の政治的立場を支持することは同じではない。
オルガ・トカルチュクが受賞したのもよい人選だと思う。わたしは彼女の小説を今年に入ってから読むようになったのだが(もちろん英訳で)、とりわけ最新作「汝の鋤を死者の骨に打ち込め」はノワール仕立ての傑作で、いっぺんに彼女のファンになった。
Thursday, October 10, 2019
関口存男「新ドイツ語大講座 下」(10)
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