ルイス・ゴールディングは1895年にイギリスのマンチェスターに生まれた。家族はウクライナ出身のユダヤ人一家である。オクスフォード大学で学び、第一次世界大戦に従軍したあと、1932年に「マグノリア通り」という小説で一躍人気作家となる。「ミスタ・エマニュエル」はその続編として書かれた。
わたしはカナダの fadepage.com にアップロードされていた本作をたまたま手にして読んで見た。「マグノリア通り」はまだ読んでない。読みはじめて、これは続編だな、と思ったが、中断するのもいやなので、とにかく読んでしまうことにした。正編を読んでいなくてもわかるといえばわかる。ただ、後日談的なおもむきが随所にあるので、「マグノリア通り」や「シルバー家の五人娘」などから読んだほうがはるかに楽しめるのだろう。
「ミスタ・エマニュエル」(1939)はマンチェスターがモデルと思われるドゥーミントンという町が舞台だ。ここのユダヤ人居住区に住むミスタ・エマニュエルは退職して息子たちがいるエルサレムに行くことを計画していた。ところがドイツからの難民(ドイツはちょうどナチスが台頭してきた頃である)ブルーノ少年と知り合いになり、彼の計画は大きく狂う。ブルーノ少年は、ドイツにいる母親から連絡がないことを苦にし、母親は死んだのではないかと思い込んで、自分も自殺しようとする。さいわい一命はとりとめたものの、この事件をきっかけにミスタ・エマニュエルはドイツへおもむき、ブルーノ少年の母親の安否をさぐろうと考える。
いくらイギリス人であるとはいえ、ユダヤ人への迫害が日増しに厳しくなるドイツへ行くというのは、無謀な行為である。じっさい、ブルーノ少年の母親の居場所を突き止めようとする彼の振る舞いは疑惑を呼び、おまけにユダヤ人による要人暗殺が起きて、彼も国際的なスパイではないかと疑われ、ゲシュタポに逮捕されてしまうのだ。しかしミスタ・エマニュエルは苛烈な取り調べにも耐え、また彼のふるさとの友人たちのおかげで、なんとか無罪放免となる。そしてついにブルーノ少年の母親の居場所を見付けるのだが……。
いちばん最後の部分は、読む人がいるかもしれないから、伏せておこう。
これはいかにも大衆受けのしそうな物語である。ドイツへの憎悪をあおり、イギリス社会の寛容性を示し、適度に感傷的。わたしはこういう物語をあまり好まないが、しかし1930年代はまだコミュニティーを描くことが出来たのだなと、感慨深く思った。日本では村社会が核家族に、核家族が個人にと分解していったが、イギリスでもこのような現象が生じたのである。
Saturday, December 21, 2019
関口存男「新ドイツ語大講座 下」(4)
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