ガーディアン紙に迫力のあるインタビュー記事が載っていた。「小さなものどもの神」を書いたアルンダティ・ロイと、ジャーナリストのゲイリー・ヤングの対談だ。(Arundhati Roy: 'I don't want to become an interpreter of the east to the west')
ゲイリー・ヤングの質問はいずれも鋭い。現在の政治状況の急所をつかんでいて、容易に答の見つからない難問ばかりだ。ロイはそれに対して驚くべき答を返している。こんなに白熱した議論を読むのは久しぶりだ。
全文を訳したいくらいだけど二箇所だけ紹介するに留める。ヤングは「左派は支持者は多いものの、ひとつにまとまって効果のある力とはなれない。アメリカでは過去二年間に史上最大級のデモが四回も行われたが、まだトランプは政治生命を保っている」という。インドでもアメリカでもオーストラリアでも日本でも同じ問題が発生している。ロイはそれに対してこう答える。「インドでは左派は共産党を意味します。インドの左派の大失敗はカースト制度に対処してこられなかったこと。アメリカは人種問題に対処してこられなかったのだと思います。『小さなものどもの神』以降のわたしの書き物はおおいにその問題を扱っています。カースト制度は近代インドの駆動エンジンです。ただ単には階級の問題ではないのです」
人種問題にしろ、カースト制度にしろ、社会に内在する亀裂を意味する。こうした亀裂は左派がもっとも知るべき所なのに、それに対して有効な手を打ち得ない。それは社会に否定的な影響を与えると同時に、社会を前進させるものでもあるからだ。ロイはそう言っているように思える。
別の箇所で、ヤングは「近代の右派の特徴として、起きてもいないことを起きたとして人々を納得させる、人々をまるめこんで、みずからを傷つけるようなことをさせる、ということがあると思います。わたしは人々に、自分の利益にならないことをさせる、という力に興味があります」と言う。それに対してロイは「共産党左派の最大の欠点は、すべてを物質主義で片づけようとする点です。彼らは人々の複雑な心理を理解できない。インドでは何千何万という農夫が借金を苦に自殺しています。人々は飢えている。ゆえに革命が起きる、とはならないのです」とこたえる。
質問と答えのあいだに齟齬があるような気がするが、ロイが言わんとしているのは「自分の利益にならないような行為をする背景、左派はそこに対する洞察が足りない。そこには複雑な心理があるのだが、左派は教条主義的な思考しか展開してこなかった」ということだと思う。これは今後も左派の問題点となりつづけるだろう。
ロイは作家を止めて政治活動に入ったと思われているけれど、このインタビューを読むと彼女にとっては作家活動自体が政治活動、すなわち戦いであることがわかる。すごい記事だ。
Wednesday, December 25, 2019
エドワード・アタイヤ「残酷な火」
エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...

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