作者名は Tod Robbins であって Tom Robbins ではない。後者はちょっと奇妙な小説を書く現代作家。トッドのほうは、「フリークス」という映画の原作を書いた人として有名だ。なんと彼が書いた最初の小説「街の精霊」が Internet Archive にアップロードされていたので読んでみた。
ジム・ホリデーという若者が田舎から都会のニューヨークへと出てくる。彼は自分に文学的才能があると自負している。彼は都会の出版社から偉大なるアメリカ小説を出して名声を獲得する日を夢見ている。
彼はニューヨークを隅々までよく知るノーマンという男に連れられ出版社へ行く。そして編集者からまじめな作品は書くな、娯楽的な作品だったら雑誌に出してやると言われる。
ジムは、当初の野望とは異なるけれど、それを受け入れ浅薄な作品を書き、作家として(金銭的には)成功するようになる。
ジムは同郷の友人ジョージとアパートに同居する。ジョージは銀行に勤めているのだが、彼もノーマンのアドバイスを受けて株に手を出し、大もうけしていた。
しかし彼らの成功が虚飾に満ちたものであることが、ある日、突然わかる。とりわけジョージのケースは悲劇的で、彼は結局命を落とすにいたる。
おおざっぱに言えばこんな話しである。これはファウスト伝説の変形版といっていいだろう。ジムとジョージを成功に導くノーマンはメフィストフェレスで、約束通りに依頼人にこの世の栄華を味わわせた後、魂をいただいて契約の決着をつけるわけである。
都会と田舎、虚飾と真実、物質的富と精神的豊饒、こうしたものが対立させられて物語は展開する。この道徳臭さがなんとも興ざめだが、しかし作者にストーリーテラーとしての才能があることはよくわかる。一つ一つのエピソードが面白く、また皮肉もよくきいている。また、ノワール的な雰囲気もうまく醸し出している。都会に潜む悪が、悪霊のように窓の外に見える場面などは、なかなかのものだ。本作は処女作のようなので、二作目以降、どのように作者が欠点を克服し、長所を伸ばしていったのか、都会の闇をどう表現していったのか、興味がある。
今月の注目作
El espejo de la muerte : Cuentos cortos by Miguel de Unamuno Project Gutenberg ミゲル・デ・ウナムーノ(1864ー1936)はスペインの文人で哲学者。今回出たのは「死の鏡」という1913年出版の短編...
-
ウィリアム・スローン(William Sloane)は1906年に生まれ、74年に亡くなるまで編集者として活躍したが、実は30年代に二冊だけ小説も書いている。これが非常に出来のよい作品で、なぜ日本語の訳が出ていないのか、不思議なくらいである。 一冊は37年に出た「夜を歩いて」...
-
アリソン・フラッドがガーディアン紙に「古本 文学的剽窃という薄暗い世界」というタイトルで記事を出していた。 最近ガーディアン紙上で盗作問題が連続して取り上げられたので、それをまとめたような内容になっている。それを読んで思ったことを書きつけておく。 わたしは学術論文でもないかぎり、...
-
「ミセス・バルフェイムは殺人の決心をした」という一文で本作ははじまる。 ミセス・バルフェイムは当時で云う「新しい女」の一人である。家に閉じこもる古いタイプの女性ではなく、男性顔負けの知的な会話もすれば、地域の社交をリードしもする。 彼女の良人デイブは考え方がやや古い政治家...