この本はグランドンという、聞いたことのない出版社から1953年に出された。ファンタジーの傑作を333冊紹介した本である。それぞれ「ゴシック・ロマンス」「怪奇小説」「科学小説」「ファンタジー」「失われた種族もの」「空想的冒険譚」「未知の世界」「東洋譚」「関連作品」に分けられ、結構くわしいあらすじが付されている。最後の「関連作品」というのは、「空想科学小説」とはいえないけれども、一般読者からそのようなジャンルに属すると認められている、やや周辺的な作品を意味する。
グランドン社は空想科学小説を専門に出す出版社だったようだが、小説のカタログを読者に郵送していたところ、マニアたちからそれぞれのタイトルの内容を知りたいという要望が度重なり、このような紹介本を編むに至ったらしい。編集したのはジョゼフ・H・クローフォード・ジュニア、ジェイムズ・J・ドナヒュー、ドナルド・M・グラント。紹介されている作品は、序文によると、1950年までに発表された空想科学小説のなかでも最高のものであるとのこと。
好事家のあいだではつとに知られた本だそうだが、わたしは初めて見た。紹介されている本がはたしてこの分野の最高の作品であるかどうかはべつにして、それなりに評価を受けた本として読んでみる価値はあるだろう。わたしが見たところ、三分の二くらいはわりと有名な作品が紹介されている。フレデリック・ブラウンの「発狂した宇宙」とかフィリップ・ワイリーの「闘士」とか、まあ、誰が見ても文句のない名作である。しかし残りの三分の一はほぼ無名の作家ではないだろうか。マーク・チャニングとかいう作家は四冊も作品がリストアップされているが、ウィキペディアにこの作家の記事はなく、Internet Archive を調べてもここに上がっている本はまだ収録されていない。(India Mosaic という見聞録みたいな本はあるのだが)
これは面白いリストが見つかった。わたしは忘れられた作品をあげたリストが大好きなのだ。もっとも興味を引かれた作品が、あまりにも忘却のかなたに行き過ぎて、今のところ、どこを捜しても手に入れようがないという難点はあるのだが。
Thursday, January 9, 2020
エドワード・アタイヤ「残酷な火」
エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...

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