意外とよい本だった。中世のドイツを舞台に、若い騎士と、エーレンシュタインの城主の美しい娘が恋に陥る。二人のロマンスがメインストーリーだが、もちろんそれが順調に実るわけがない。主人公を嫉妬する騎士が嫌がらせをしたり、恋の邪魔をし、主人公はあわや命を失うかも知れないという危地に追い込まれたりもする。それを主人公は堂々と切り抜け、また最後にはその出生の秘密が明かされ、大団円を迎えるのである。
こう書くと平凡なロマンス・貴種流離譚ではないかと思われるだろうが、面白いのはゴシック風の怪奇現象も描き込まれている点である。エーレンシュタイン城のある部屋や地下では奇怪な物音がしたり、幽霊があらわれたりする。ある程度読み進めれば、幽霊やら物音の理由はだいたい想像がつくのだが、それでもこの怪奇趣味がプラスされて、物語はぐんを興趣を増す。
とりわけ第一章はすばらしい。嵐の晩に主人公が真っ暗な城の地下道を抜け、外の森を通り、僧院へと向かうのだが、不気味な雰囲気たっぷりの、極上の出だしである。第一章以降にこのようなゴシック小説的描写(あるいはペニードレッドフル的な描写)が少ないのは残念だが、それでも充分面白い。主人公と城主の娘のロマンスは、チャールズ・リードの「修道院と炉端」と比較してもいいくらいよくできている。
1847年に三巻本で出版された大長編で、物語の進行はゆっくりしているが、足取りの確かな文章で綴られている。最後まで退屈せず読むことができた。
独逸語大講座(20)
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